back to contents
特集ハイパーライブラリー
ハイパーライブラリー・キーワード



教育とデータベース

1.はじめに
 本年6月にアメリカのボストンで開催された「教育とマルチメディア(通称ED-Media)」の国際会議で,アラン・ケイが基調講演を行なったが,そこで彼は,「教育におけるコンピュータ革命はまだ起こっていない」という趣旨の見解を述べた.過去,アメリカを中心として,わが国においても様々なコンピュータ利用の研究・実践がなされてきたにもかかわらず,本当の意味で,われわれの学習スタイルや方法に変化をもたらしてはいないということと,また知識や知恵を効果的に獲得する能力が育っているわけではないことを指摘するものであった.これはインターネットのような情報通信インフラの充実に伴って,教育環境がオープンなものとなり,ネットワーク環境にリンクしている資源が教育的にも大きな意味を持ち,オープンな環境を前提にした「遠隔教育での学校の役割」を提起し,今後の教育制度,形態,カリキュラム等の変革の必要性を示唆するものであろう.

 ここでは,そういった視点からインターネット環境での教育データベースの役割や意義について述べることにする.

2.分散データベース化素材とそのニーズの様相
 インターネットで結ばれた様々な資源は,必然的に分散・協調的な形態のもとでシェア(共有化)されて利用される環境を生む.様々なサイトで生まれる日々の情報は,新鮮であり,それらの利用は生きた教育活動を促進させる.今,データベース化のための素材やソフトウェア,さらにはそれらの利用を整理すると,
(1)電子図書館の分散データベースとWWW利用
(2)アニメーションとシミュレーション(様々な分野での実験データの蓄積と利用)
(3)マルチメディア・ハイパーメディア・ソフト作成のための素材庫と構成ツール
(4)教師の学生指導のためのデータベース
(5)コンピュータを介した新しいコミュニケーションの形態の探求
(6)協調学習の仕組みとそのためのグループウェア
(7)遠隔教育とテレコミュニケーション(テレビ会議)
(8)共同学習と分散学習環境
(9)探求学習のための相互作用学習環境(Interactive Learning Environment)
(10)learning by doingとlearning by teaching
(11)マルチメディアと人工知能(新しいメディア処理)
(12)ナヴィゲーション
(13)ヴァーチュアル・リアリティの応用

3.今後の展開
 今後ますますインターネット上で様々なサーチ・エンジンが開発され,より多くの情報を効率的に収集することができる環境が整っていくであろう.また様々なオーサリング・ツールは情報生成や発信を容易にさせるであろう.しかも情報はマルチモーダルな形態で飛び交い,居ながらにして生きた情報を手にとることができる.現在,文部省と通産省の協力のもとで「100校プロジェクト」と呼ばれるインターネット利用が学校の中で行なわれている.さらにNTT,郵政省と文部省とで“こねっと”と呼ばれる1000校規模のプロジェクトの計画がなされている.技術的には過渡的な状態でのプロジェクトではあるが,今後の展開に大きな意味を持つであろう.知恵の蓄積と分配を新しいネットワーク環境でどのように行なっていくかをそろそろ考えなくてはならない時期に来ているのかも知れない.

(おかもと としお・情報システム設計学)