オープン・スペースは,館内を「アート& テクノロジー」「ネットワーク」「研究開発」「アーカイヴ」という4つのゾーンおよびコーナーに分け,作品展示のほか,ICCの活動の歴史をさまざまな資料や映像記録などにより紹介する入場無料のコミュニティ・スペースとして始まった.この会場構成は2008年度で終了したが,それぞれの要素は「オープン・スペース 2015」まで継承されている.ここでは,4つのゾーンおよびコーナーの構成意図を振り返りながら,オープン・スペースの歩みを概観する.

アート&テクノロジー・ゾーン

主にメディア・アート作品を展示するエリア.情報社会における芸術表現とそれを取り巻く状況,同時代の文化全般の表現様式や社会の推進を概観することができるよう企図されている.2008年度までは,現代の情報社会の状況を象徴するテーマやメディア・アートにおいてよく取り上げられるトピックをキーワードとし,それに沿って作品が選定されていた.その点も影響してか,当初はいわゆる「メディア・アートのマスターピース」を展示するという側面が強く,とくに若い世代の来場者にとっては,書籍や映像などでしか知ることのなかった作品を実際に体験できる貴重な機会となったと思われる.近年は,学生時代に「オープン・スペース」を見学していたような比較的若手の作家に新作の発表機会を提供する一方で,「オープン・スペース」開始当初に展示していたよりもさらに古い作品も併せて展示している.ジェフリー・ショー《レジブル・シティ》(1989–91)の再制作版や阿部修也《アベ・ヴィデオ・シンセサイザー》(1972/2012),また藤幡正樹が1980年代に手がけた映像作品のように,メディア・アート初期または前史に位置づけられる作品にあらためて焦点を当てることで,現在の視座からメディア・アート史を読み直し,さらに美術史への再接続を行なうことを試みている.背景には,メディア・アートの歴史化やメディア・アート作品の保存に対する問題意識が急速に高まっている状況もあると言えるだろう.
ゾーン内に設けられた新進作家紹介コーナー「エマージェンシーズ!」は,各年度内で複数回展示替えを行ない,2015年度までに27組の作家を紹介している.「オープン・スペース」全体のコンセプトと同様に,美術の分野だけでなく,デザインや研究など幅広い分野を取り上げている.当初は大学もしくは大学院卒業直後の,作品制作を始めて間もないような作家を紹介する割合が多かったが,近年は他所での展示実績が比較的豊富な若手作家を紹介することが増えている.このため,近年の展示は,作家のこれまでの活動を概観できるような,複数の作品展示による小個展的な構成をとることが多い.「エマージェンシーズ!」出品作家からは,のちに「オープン・スペース」展の本編で作品を展示する作家(比嘉了,三原聡一郎,斉田一樹,谷口暁彦,和田永)を輩出しているほか,本コーナーでの展示をきっかけに,いきなり海外での展示機会を得る作家も出るなど,若手作家の新鮮な表現に触れる場として一定の認知を得ている.

ネットワーク・コーナー

ネットワーク技術に触発されたアート作品,あるいは新たなコミュニケーションや表現の創発を促すような技術を展示するコーナー.インターネットを中心にさまざまなネットワークが生活の中に入り込んでいる現代の状況を背景としている.「ネットワーク・コーナー」は,主として大学などの研究機関,または研究助成を受けたプロジェクトを紹介するコーナーという意味合いが強かったが,インターネットはメディア・アートにおける主要な題材のひとつである.そのため,「オープン・スペース」では2006年度から継続してインターネットをモチーフとした作品を展示している.

研究開発コーナー

産・官・学それぞれの研究事例を紹介するコーナー.技術者や教育現場から発想される未来像を提示するとともに,単に技術の刷新をめざすだけでなく,技術そのものが持つ文化的なインパクトや背景にも注目し,「研究開発」あるいは「技術」といった視点から見た,人間のコミュニケーションや感性の未来像を提示することを目的としている.2011年度からは,年度ごとに大学の研究室や研究プロジェクトを取り上げ,会期中数回の展示替えを行なうことで,プロジェクトの最新の取り組みを多数の事例によって紹介する形式が定着している.

アーカイヴ・ゾーン

アーカイヴ・ゾーンは,図書室(2011年度以降非公開)やミニ・シアターでの資料の閲覧や映像作品の視聴,およびICCの映像アーカイヴ「HIVE」によって構成される,ICCの歴史を多面的に提示するものとして設置された.HIVEでは,ICC が持つヴィデオ・アート作品のコレクションのほか,ICCで開催されてきた数多くの活動の映像記録を閲覧することができる.さらに,1989年以降のメディア・アートの代表的な作品を社会の動きとともに一望することができる「メディア・アート年表」(2006年度から2008年度までは,アート&テクノロジー・ゾーン内で「インタラクティヴ年表」として展示)も,1年ずつ内容が更新され,「オープン・スペース」のアーカイヴ機能の重要な軸と位置づけられている.HIVEおよびメディア・アート年表はウェブ版も展開しており,一部のコンテンツはICCの外からも閲覧が可能である.

HIVE http://hive.ntticc.or.jp/
ICC×メディア・アート年表 http://www.ntticc.or.jp/Chronology/