ICC
OS2014
展示作品
《指紋の池》
2010年
ユークリッド(佐藤雅彦+桐山孝司) dot

撮影:木奥恵三

液晶ディスプレイに,多数の指紋が魚の群れのように泳いでいます.指紋認証センサーに指を置くと,自分の指紋がスキャンされて液晶ディスプレイの中に現われます.すると,まるで池に放流された魚のように,自分の指紋が泳ぎだし,ディスプレイの中を泳いでいる指紋の群れの中にまぎれていってしまい,どれが自分の指紋なのか判別できなくなってしまいます.もう一度,センサーにおなじ指を置くと,指紋の群れの中から自分の指紋があらわれ,自分の指へと帰ってきます.

指紋は,個人それぞれで同じものがないという特徴をもつため,個人認証から犯罪捜査まで,古くから個人を識別,同定するための指標(目印)とされてきました.現在では生体認証技術にも多く利用され,指紋によって正確に個人を同定することができます.しかし,わたしたちはそのような自分しか持ちえない個人の特徴を,日常的には認識することができません.

指紋がスキャンされ,自分の身体から分離されて池の中に泳いでいってしまう時,それを自分の分身のように感じるかもしれません.そして,分身である指紋が自分の指に帰ってくる時に,普段わたしたちが気にも留めることのない,自分の属性のひとつである指紋というものに対して,それまで感じたことのない,「いとおしさ」や「いつくしみ」を感じることができるのです.

機材提供:日本サムスン株式会社(2010年)
技術協力:日本電気株式会社,藤田至一(東京藝術大学)

*この作品でスキャンした指紋は展示の中だけで完結し,指紋と個人情報が結びつくことはありません.

ユークリッド(佐藤雅彦+桐山孝司) プロフィール
佐藤雅彦(1954年生まれ)と桐山孝司(1964年生まれ)によって2006年に結成.メディア技術を利用した新しい体験のための装置を制作.
佐藤は,脳科学の知見にもとづく表現の研究や科学実験を通した独自の方法や考え方による,ジャンルやメディアの枠にとらわれない活動を行なう.
桐山は,映像メディア学,創作支援技術の研究活動を行なう.

佐藤雅彦
過去に参加した展示・イヴェント

桐山孝司
過去に参加した展示・イヴェント