ICC
OS2013
展示作品
《遠心力体験装置》
2011年
ティル・ノヴァク


撮影:木奥恵三

一見すると,遊園地のアトラクションのような7つの遊具の映像ですが,それらは常軌を逸した,普通ではありえないような構造や挙動を伴っています.高速に回転する巨大な球体から放射状に,その遠心力によって飛び出す回転ブランコ,または,一周するのに14時間もかかるという巨大な構造を持った観覧車,などなど.これらのアトラクションは,おもに高速な回転運動によって強力な遠心力や加速度を体験できるようにデザインされています.

もちろん,実際にはこのようなアトラクションは実現していません.この作品は,遠心力が人間の脳に与える影響を研究する「遠心力研究所」の研究という設定の架空のドキュメンタリーにもとづいて制作されました.CGで実写と合成された架空のアトラクションは,スフェロソン,ウエディング・ケーキ,エクスパンダー,ダンデライオン,高高度観覧車,蒸気圧射出機,シュヴィング・マシーンと名付けられ,それぞれ詳細な設計図とともに展示されています.

ノヴァクは,これらの乗り物を,文明のカリカチュア(戯画)として描いており,乗客が回転に伴う遠心力を体験する様子は,私たちが現実から逃避したいという願望を象徴しているのだと言います.それは,フランスの思想家ロジェ・カイヨワが,人間の遊びを4つに分類し,そのひとつを「めまい(イリンクス)」と定義したこととも結びつけられるでしょう.

ティル・ノヴァク プロフィール
1980年生まれ.ハンブルク在住.コマーシャルフィルムやグラフィック制作のスキルを生かして,現在の科学や技術では実現不可能な空想の出来事を,映像,写真,印刷物といった複数のメディアを使ってドキュメントしている.そうして積み上げられたフィクションによって,まるでそれが現実の出来事であるかにように提示される世界には,ユーモアが溢れる一方で現代社会や都市生活者に対する皮肉がこめられている.