ジャグラー(曲芸師)が空中に投げあげた受話器が,哺乳瓶,そこから飛び出したミルク,さいころ,骨へと次々にその形を変化させ,最後の骨がパラシュートに乗ってジャグラーの手元に受話器となって戻ってきます.輪になって,外側を向いて並んだ複数のジャグラーが,それぞれその場でおなじ動きを繰り返している様子は,どこか現実のものではないような,実体感のない映像のようにも見えます.
それらジャグラーと空中に投げられる物体は立体でできており,大きな円筒形のフレームの周囲に等間隔でとりつけられ,暗い空間を高速で回転しています.連続写真やパラパラマンガのように,ひと続きの動きを分割して,それぞれの瞬間として作られた立体が,点滅するストロボ・ライトが照らされるとアニメーションと同様に動きのない物体に時間が与えられ,実在しない「動いている」光景に見えるのです.
ICCから制作委嘱されたこの作品は,バーサミアンにとって重要なテーマである,人間と機械の間にある希望と葛藤を表現した作品です.一貫して19世紀に発明された映像装置であるゾーイトロ−プのしくみを応用した立体的な彫刻によるアニメーションを制作するバーサミアンは,機械による反復と残像効果によって論理性や確実性から逃れた夢のようなイメージを作り出します.
グレゴリー・バーサミアン プロフィール
1953年生まれ.ユング心理学の影響を受け,1983年以来自分が見た夢の断片をテープ・レコーダーに記録してきた.彼の作品は,この自身の夢のデータベースを元にして作られている.まるで夢の一幕のように見える,回転する立体ゾーイトロープによって表現される作品は,アイロニーとユーモア,個人的なものから普遍的なものなど,幅広いテーマを扱っている.
過去に参加した展示・イヴェント