ICCの活動理念には,「豊かな未来社会を構想」するということが示されています.ICCは,科学技術の進歩とそれに伴う芸術表現とによって「豊かな未来社会」を描いてみることで,未来へのヴィジョンを提示することを試みてきました.
そしていま,わたしたちは新しい時代に入っていこうとしています.それは,かつて描き出された「豊かな未来社会」が,もうわたしたちの未来を映し出してはくれない時代かもしれません.そこで,もう一度,どのような「豊かな未来社会」をわたしたちは構想していくべきなのかを考え,「新しい〈未来〉」を描き出すことが,必要とされているのではないでしょうか.
このシリーズ「新しい〈未来〉」では,さまざまな人々の活動や実践を通じて,「豊かさ」の意味や新しい未来像への手がかりを探っていきます.
シリーズ「新しい〈未来〉」第四回は,ドイツの電子音楽レーベルraster-notonのメンバーをお迎えします.今年設立15周年を迎えるraster-notonは,音楽だけにとどまらず美術やデザインの領域でも多様な活動を展開するアーティストたちの作品により,国際的に高い評価を得ています.今回は,レーベルの設立者であるカールステン・ニコライとオラフ・ベンダー,そしてヴラディスラヴ・ディレイにお話をうかがいながら,〈未来〉というものがそれぞれにとってどう捉えられてきたか,さらにその〈未来〉観がどう変わってゆくのかについて考えます.
トークの後に,raster-notonのアーティスト3人を加えた計6人による短時間のプレゼンテーションも予定しています.
1965年カール・マルクス・シュタット(現ドイツのケムニッツ)生まれ.アーティスト/ミュージシャン.aka alva noto,noto,aleph-1.音響学,幾何学,結晶学など物理科学の成果を独自に応用し,物理的現象や情報の創造的なプロセスを微視的に扱う作品を,電子音やヴィジュアル・アートを越えて発表し,国際的な評価を得る.美術館やギャラリー,国際展での展示も数多い.また,1994年にnoton.archiv für ton und nichttonを,99年にレーベル raster-notonを設立し,多様な実験音楽,電子音楽の作品をリリース.坂本龍一,池田亮司(cycloとして),オラフ・ベンダーとフランク・ブレットシュナイダー(signalとして),ブリクサ・バーゲルト(anbbとして),マイケル・ナイマン,ミカ・ヴァイニオらとコラボレーションを行なったり,アンサンブル・モデルンなど数々のオーケストラとの共演も重ねている.
http://www.carstennicolai.de/
http://www.alvanoto.com/
http://www.raster-noton.net/
1965年カール・マルクス・シュタット(現ドイツのケムニッツ)生まれ.ミュージシャン/デザイナー.aka byetone.raster-notonをカールステン・ニコライ,フランク・ブレットシュナイダーとともに設立.レーベルのグラフィック・デザインを担当し,中心的なメンバーとして活動する.また,byetoneやニコライとフランク・ブレットシュナイダーとのユニットsignalとして,アルバムをリリースしたり,世界各地でパフォーマンスを行なっている.
http://www.byetone.net/
http://www.raster-noton.net/
Vladislav Delay(ヴラディスラヴ・ディレイ) aka Sasu Ripatti(サス・リパッティ).1976年フィンランド生まれ.ミュージシャン.「Vladislav Delay」の他,「Uusitalo」,「Luomo」, 「Sistol」など多くの名義を使い分け,数々の作品を発表してきた.シザー・シスターズ,クレイグ・アームストロング,AGF,ブラック・ダイス,マッシヴ・アタック,テイ・トウワらとコラボレーションも行なっている.
http://www.vladislavdelay.com/
AGF aka Antye Greie(アンティ・グレイエ).旧東ドイツ生まれ.ミュージシャン/プロデューサー/詩人/カリグラファー/メディア・アーティスト.言語とコミュニケーションの逆構造解釈を通してデジタル・テクノロジーを使用したアート表現を探求.自らの詩を,電子音楽,カリグラフィー,デジタル・メディアに変換し,レコード,ライヴ・パフォーマンス,サウンド・インスタレーションという形態で,世界中の美術館,劇場,コンサートホール,クラブなどで発表してきた.2004年には,アルス・エレクトロニカで優秀賞を受賞.ヴラディスラヴ・ディレイ,zavoloka,クレイグ・アームストロングらとのコラボレーションや,エレン・エイリアンらのアルバムのプロデュースも行なっている.
http://antyegreie.com/
フランス生まれ.音響詩人.レシート,フライヤー,チケットなど日常生活で手にするあらゆる印刷物をもとに,多極的な作品を生み出す.ソロ活動の他,カールステン・ニコライ,アンディ・ムーア(The Ex)らとのコラボレーションも積極的に行なっている.作品に,『événements 09』(2011,raster-noton)など.
http://aj.chaton.free.fr/
1977年生まれ.グラフィック・デザイナー/サウンド・アーティスト.2006年に東京からベルリンへと活動の拠点を移す.科学的,数学的要素に関心を持ち,raster-notonのサウンドおよびヴィジュアル・プロジェクトに長年携わってきた.カールステン・ニコライ,オラフ・ベンダーらとともに,世界各地で様々なパフォーマンスも行なっている.作品に,『con. duct. spc. trm』(2002,raster-noton)など.
カールステン・ニコライ
オラフ・ベンダー
ヴラディスラヴ・ディレイ
畠中実
alva noto (carsten nicolai)
byetone (olaf bender)
vladislav delay
agf
anne-james chaton
nibo
撮影:高尾俊介
東京大学人工物工学研究センターは,人工物を作り出す知識とその運用に関する新しい学問体系の確立を目的とし,1992年に設立されました.領域分化が進んだことによる全体としての整合性の欠如への反省から,領域横断的な知のあり方を模索するあり方は,メディア・アートが目指していたこととも重なります.
シリーズ「新しい〈未来〉」第三回は,ともに人工物工学研究センター在籍
を経て現在は美術大学で教鞭をとる久保田晃弘さんと桐山孝司さん,さらに詩人の松井茂さんをお迎えし,工学よりの視点からみたアート&テクノロジーの未来について,お話をうかがいます.
1960年大阪生まれ.アーティスト/研究者.多摩美術大学情報デザイン学科情報芸術コース教授.東京大学大学院工学系研究科船舶工学専攻博士課程修了,工学博士.数値流体力学,人工物工学(設計科学)に関する研究を経て,1998年から現職.現在は,衛星芸術(artsat.jp),バイオアート(bioart.jp),デジタル・ファブリケーション(FabLab Japan),ソーシャル・マテリアル,自作楽器によるサウンド・パフォーマンスなど,さまざまな領域を横断・結合するハイブリッドな創作の世界を開拓中.著書に,『消えゆくコンピュータ』(岩波書店,1999),『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』(大村書店,監修,2001),『創造性の宇宙—創世記から情報空間へ』(工作舎,共著,2008),『Beyond Interaction—メディアアートのためのopenFrameworksプログラミング入門』(BNN新社、共著、2010),『FORM+CODE—デザイン/アート/建築における、かたちとコード』(BNN新社,監訳,2011)などがある.
http://www.idd.tamabi.ac.jp/art/contents/staff/kubotaakihiro/
http://dp.idd.tamabi.ac.jp/hackerspace/
1964年生まれ.研究者.東京藝術大学大学院映像研究科教授.東京大学大学院工学系研究科修了,工学博士.東京大学人工物工学研究センター,スタンフォード大学設計研究センター,独立行政法人科学技術振興機構さきがけ研究員,東京大学大学院情報学環を経て現職.映像メディア学,創作支援技術の研究活動を行なっている.佐藤雅彦とのユニット〈ユークリッド〉で,メディア技術を利用した新しい体験のための装置を制作している.展覧会に,「六本木クロッシング2007」(佐藤雅彦+桐山孝司《計算の庭》,森美術館,2007),「オープン・スペース 2008」(佐藤雅彦+桐山孝司《計算の庭》,ICC,2008),「ICC キッズ・プログラム 2008 〈君の身体を変換してみよ〉展」(佐藤雅彦研究室+桐山孝司研究室,ICC,2008),「“これも自分と認めざるをえない”展」(ユークリッド(佐藤雅彦+桐山孝司)《指紋の池》《属性のゲート》,21_21 DESIGN SIGHT,2010)など.
1975年生まれ.詩人.詩集に,『同時並列回路』(アロアロインターナショナル,2006),『量子詩』(アロアロインターナショナル,2006),『Camouflage』(photographers' gallery,2008-09),『時の声』(photographers' gallery,2010)など.展覧会に,「宥密法」(豊田市美術館,2003),「春のアーティスト・イン・レジデンス2006 EPHEMERAL:遍くひとつの時」(国際芸術センター青森,2006),「第3回府中ビエンナーレ:美と価値 ポストバブル世代の7人」(府中市美術館,2006),「ICCキッズ・プログラム 2010 いったい何がきこえているんだろう」(ICC,2010)など.研究活動として,「デジタルメディアを基盤とした21世紀の芸術創造」(CREST研究)プロジェクト,「新国誠一の《具体詩》ー詩と美術のあいだに」展(国立国際美術館)調査への参加など.最近は,1950,60年代のテレビ・メディアと現代美術の影響関係について研究している.現在,東京藝術大学大学院映像研究科特任研究員.
http://www008.upp.so-net.ne.jp/methodpoem/
久保田晃弘
桐山孝司
松井茂
畠中実
撮影:高尾俊介
二回目は,音楽家の大友良英さんとアーティストの高谷史郎さんをお迎えします. 福島の姿を世界に発信し,福島の未来を考えていく「プロジェクトFUKUSHIMA!」を立ち上げ,8月15日には福島でフェスティヴァルを開催するなど,継続的な活動を行なっている大友さんのお話を中心に,高谷さんの現在考えていること,関わっていることなどをお聞きしながら,これからなにが考えられ,またどのような実践がありうるのかを一緒に模索します.特別ゲストとして,科学者の木村真三さんにもお話をうかがいます.
1959年生まれ.ギタリスト/ターンテーブル奏者/作曲家/プロデューサー.ONJO,INVISIBLE SONGS,幽閉者,FEN,Double Orchestraなど複数のバンドを率い,またFilament,I.S.O.,カヒミ・カリィ,音遊びの会など数多くのバンドやプロジェクトに参加.映画,テレビドラマなど,映像作品の音楽も多く手がけている.近年は美術家たちとのコラボレーションも多く,サウンド・インスタレーションを手がけると同時に,障害のある子どもとの音楽ワークショップや一般参加型のプロジェクトにも力を入れている.展覧会に,「ENSEMBLES」(山口情報芸術センター[YCAM],2008),「ENSEMBLES'09/休符だらけの音楽装置」(東京を中心に各地で展開,2009),「アンサンブルズ2010—共振」(水戸芸術館現代美術ギャラリー,2010)など.著書に,『MUSICS』(岩波書店),『大友良英のJAMJAM日記』(河出書房新社),『ENSEMBLES』(月曜社)などがある.
http://www.japanimprov.com/yotomo/yotomoj/
http://d.hatena.ne.jp/otomojamjam/
1963年生まれ.アーティスト.1984年アーティスト・グループ「ダムタイプ」の創設時から活動に参加,パフォーマンスやインスタレーションの制作に携わり,ヴィジュアルワークを総合的に担当.90年代後半よりディレクションに関わるかたわら,ソロ活動を開始.視覚装置や視覚のメカニズムをコンセプチュアルに可視化していく作品《frost frames》(1998),《optical flat》(2000)や,パフォーマンス《明るい部屋》(Theater der Welt,ドイツ,2008)を発表.《optical flat》は,展覧会「ライト・[イン]サイト」(ICC,2008)に出展された.また,坂本龍一のオペラ《LIFE》の映像制作(1999),中谷芙二子との共同制作インスタレーション《IRIS》(バレンシア・ビエンナーレ,スペイン,2001),坂本龍一との共同制作インスタレーション《LIFE - fluid, invisible, inaudible ...》(山口情報芸術センター[YCAM],2007,同年ICCに巡回),中谷芙二子との共同制作インスタレーション《CLOUD FOREST》(山口情報芸術センター[YCAM],2010)などがある.2007年には,気候変動について考えるための北極圏遠征プロジェクト「Cape Farewell」(イギリス)に日本人アーティストとして初めて参加した.
http://www.dumbtype.com/
1967年生まれ.科学者.専門は放射線衛生学.科学技術庁放射線医学総合研究所,独立行政法人労働安全衛生総合研究所,名古屋大学大学院医学研究科研究員,北海道大学医学部非常勤講師などを経て,現在は獨協医科大学国際疫学研究室准教授.チェルノブイリ原発事故,東海村臨界事故による放射能汚染と人体への影響を中心に研究している.福島第一原発事故直後から現地調査を実施.その模様は,NHK「ETV特集 ネットワークでつくる放射能汚染地図」で放送され,反響を呼んだ.福島で開催された「8.15世界同時多発フェスティバルFUKUSHIMA!」では報告会を行なった.
写真提供:REALTOKYO編集部
大友良英
高谷史郎
木村真三
畠中実
撮影:高尾俊介
神戸市生まれ.海洋学を修めて,海洋汚染の数値計算に従事しつつ,園芸に転向し千葉大学大学院博士課程修了.東京芸術大学で10年,独自な観点で創発について講ずる.脱領域的な試みに挑戦しつつ,美術館,ギャラリーなどで作品展示,ワークショップを多数行なう.展覧会に,「21世紀の出会いー共鳴,ここ・から」(金沢21世紀美術館,2004),「サイレント・ダイアローグー見えないコミュニケーション」(ICC,2007),個展「生と死の半分あるいは「manuality」@ASK?2008」(art space kimura ASK?,2008)など.
http://wiki.livedoor.jp/dogane/
現代美術作家.1965年大阪府生まれ.1989年京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業.1990年のデビュー以降「サヴァイヴァル」をテーマに,終末の未来を生き抜くための立体作品を制作.1997年よりガイガーカウンターを搭載した自作の放射線感知服を着て,原発事故後のチェルノブイリなどを訪問する「アトムスーツ・プロジェクト」を開始.子供の頃大阪万博跡地で遊んだ経験から「未来の廃墟」に既視感を抱き,その先へ前進すべく,00年代より「サヴァイヴァル」から「リヴァイヴァル」へテーマを拡大,現在も国内外で精力的に発表を続けている.展覧会に,「日本ゼロ年」(水戸芸術館,1999),個展「メガロマニア」(国立国際美術館,2003),個展「キンダガルテン」(豊田市美術館,2005),個展「トらやんの世界」(霧島アートの森,2007),個展「ヤノベケンジ—ウルトラ」(豊田市美術館,2009)など.
http://www.yanobe.com/
1985年東京都生まれ.ロイヤル・カレッジ・オブ・アート大学院 Design Interactions学科修士課程修了.テクノロジーやフェミニズム,ポップカルチャーをテーマとする映像,デバイス,音楽作品を制作.テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を反映させた,社会批評的な作品が中心となっている.2009年,原田セザール実との共同プロジェクト《Open_Sailing》が,アルス・エレクトロニカで[the next idea]賞を受賞.2010年,《カラスボット☆ジェニー》が,文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品に選ばれる.展覧会に,「東京アートミーティング トランスフォーメーション」(東京都現代美術館,2011),「Talk to Me」(ニューヨーク近代美術館,2011)など.
http://sputniko.com/
銅金裕司
ヤノベケンジ
スプツニ子!
畠中実
撮影:高尾俊介