撮影:木奥恵三
二つの映像が,シンプルに左右に並べて合成されています.素材となった映像は,同じ場所を別々に,どちらも一回も中断せずに撮影したものです.それぞれのカメラは,潮の満ち引きのように左右を行きつ戻りつしながら机をとらえています.そうして撮影された二つの映像が並べられると,机が伸び縮みしたかのように見えます.さらに,人が入ってさまざまな動作をすることによって,奇妙な時空間が現われます.
作者は,ひとつの出来事を前後両面から同時に撮影し,それを一画面に合成するという手法で映像を制作してきましたが,今回展示する作品は,最近取り組んでいる別シリーズの新作です.前シリーズでは,決して一緒に観ることができないはずの事象が同時に観られることによる,空間性の不思議さが印象に残りますが,この作品では,移動撮影や,素材が撮影された時間軸の違いを組み合わせることで,時間と空間双方にゆがみを生じさせています.
撮影や編集など映像制作の各場面では,さまざまな手法が用いられます.しかしわたしたちはふだん,その手法や「映像を観ること」自体に意識を向けることはあまりありません.これに対し作者は,どの手法を用いるかを慎重に選択し,あえてシンプルなシステムで撮影を行なうことで,カメラで撮影すること,またそれを編集/合成などにより操作するとはどういうことなのかという,映像表現の本質を探っているといえるでしょう.
コラボレーティヴ・パフォーマー:神村恵,高嶋晋一
越田乃梨子 プロフィール
1981年生まれ.2008年東京藝術大学大学院映像研究科修了.武蔵野美術大学在学中に映像制作を始める.複数のカメラを用いた独自の撮影手法とシンプルな仕掛けで,ヴィデオというメディアを強く意識した作品を制作.これまでに,「歪んだ瞬間」展(2009,川崎市市民ミュージアム)や第2回恵比寿映像祭(2010,東京都写真美術館)で作品が紹介されている.