ICC

展示作品

《モレルのパノラマ》
2003年
藤幡正樹

撮影:木奥恵三

部屋の中央にパノラマカメラが設置されています.このカメラは,半球上の鏡に反射された像を撮影することにより,周囲の全景をとらえることができます.撮影された映像はコンピュータ・ソフトウェアによって円筒状に変形され,リアルタイムで壁面に投影されます.また,ときおり現われるもう一つの円筒には,事前にその空間で録画された作者自身の映像が同様にマッピングされています.

カメラのレンズは,わたしたちの視線の代理として被写体に向けられますが,360度撮影可能なパノラマレンズの場合には,「カメラの後ろにいる」ことはできません.つまり人は,見る者であると同時にその撮影対象でもあることを強いられ,見られる人と化してしまいます.その点でパノラマカメラは鏡に近い性質をもっていると言えますが,鏡と異なり視線が正対することはありません.またこの作品では,映像の再現にコンピュータの画像処理技術が利用されているために,鑑賞者は自分自身が映り込んだパノラマをその外部から見ることになり,主体と客体との関係が何層にも重ね合わされた構造が生まれてしまいます.
作品中で,作者はタイトルの由来になったアドルフォ・ビオイ=カサーレスの小説『モレルの発明』を朗読しています.この記録された映像によって,作者の存在が明示されるとともに,並行する異なる時間軸が存在することを提示し,写真以降の映像メディアにおける実時間性,記録と再生などの時間の問題を想起させます.

藤幡正樹 プロフィール

藤幡正樹は,80年代より多様なアプローチにより科学と芸術の関係を探求した数々の作品を発表し,メディア・アートの第一人者として国内外から注目されている.主な作品に《ビヨンド・ページズ》,《フィールド・ワーク》など.『アートとコンピュータ』『不完全な現実』など著書多数.現在,東京藝術大学大学院映像研究科長.
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