ICC





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アーティスト・トーク

2002年1月18日(金)ー 3月24日(日)ギャラリーB(CAVE)





はじめに


 テレサ・ウェーンベルグは,画家であり,また1970年代後半より活躍している,ヴェテランのメディア・アーティストです.ポンピドゥー・センターにおいて,ヴィデオ作品の研究と発表を行なった後,コンピュータ・グラフィックスなど幅広い領域を研究しました.
 1980年のパリ・ビエンナーレをはじめ,アルス・エレクトロニカ,ELECTRA展など数多くの国際展に出品,1998年より,ストックホルムにあるスウェーデン王立技術研究所の研究員となり,ヴァーチュアル・リアリティのプロジェクトに携わっており,同研究所にある6面のCAVEシステムを使った作品《The Parallel Dimension》を発表しています.
 彼女の作品は,記憶や知覚などをテーマにし,詩的に,また創造的にデジタル・メディアを身体化することにより表現されています.
 今回の《ブレインソング──脳との対話》は,ICCのCAVEのため,スウェーデン王立技術研究所において開発された新作であり,人間の脳の神秘的な機能を,CAVEのヴァーチュアル・リアリティ技術を駆使して表現するものです.観客は,インタラクティヴにそのヴァーチュアルな脳の世界に入り込むことができ,人間の感情や記憶などについてのイメージを体験することができます.

作家コメント:

 私たちの脳は極めて洗練された器官であり,同時に,まったく機械的でもあります.ある入力信号は,脳の能力の大部分を費やすほどのめざましい正確さで処理され──記憶機能を引き出し,多数の決断を行ない──正確に行動が行なわれます.他の入力信号はよりいっそう何気なく処理され,そして決まりきった処理へと速やかに選別されます.
 私たちがただ動き回り,日々現実の中で行動するために,脳は,膨大な量の極微細なニューロンを用います.これらのニューロンは常にメッセージを発しています.──私たちは10秒ごとに新しい記憶を作り出すと言われています.脳とコンピュータは,非常に似通った情報処理手段を持っています.扉が開いたり閉じたりするように,アクセス許可・拒否したり,相方のシステムはある行動を遂行するために,活発に命令したりされたりしています.
 この類似性に触発され,テレサ・ウェーンベルグは,三つの主な要素──瞬間的な記憶と決断,ものや数字の識別,空間上の位置認識──に関係したヴァーチュアル・リアリティ環境《ブレインソング》を制作しました.《ブレインソング》では,私たちは多くの驚くような矛盾に直面させられます.──じっと立っているけど飛んでいる,堅い壁を通り抜ける,まったく異なった状況の間を信じ難い速さで移動する,ヴァーチュアルゆえに傷つけられない武器で攻撃される──私たちを安定した感覚と,混乱の間で動揺させるのです.

 これはゲームでしょうか? いいえ.私たちがこれまで決して発見できなかった,脳の一部との出会いなのです.

 私たちのすべての日常の物理法則を無視した,このヴァーチュアルな場をさまよう時,私たちはどのようにして「真実」と「偽り」の差を決めているのでしょうか?
 興味深いのは,私たちの脳は,それほど明確にそれらを区別しているようにはみえないことです.脳の機能は並列です.──マーヴィン・ミンスキーが「思考の社会」として述べたように,すべてを見通している管理者や,あるいは「主体」もいません.むしろそれは,多重の相互作用により異なった機能を提供する,システム全体の流動的なコミュニケーションなのです.脳は真実の概念すら必要としません.根源的に正しい世界像を探すというよりむしろ,脳は本能的にそれぞれの体験に適した妥協点を,巧みに見い出すのです.あなたが体験しようとしている,このヴァーチュアル・リアリティの世界のような奇妙な世界では,あなたの心はそれに順応し,奇妙なコンセンサスを作りだすでしょう.

 まず最初は,モデルによって脳の中での相互作用(Interconnections)を見せるという状態から始まります.続いて,私たちはわれわれの脳の機能を危うくするような,様々な状況へと冒険できます.そして私たちにその非凡な柔軟性を経験させてくれます.ちょうど私たちの身体が,永久運動を行なっているのと同じように,《ブレインソング》での体験は,主に動きを,そして記憶と素早い判断をベースにしています.私たちがこの仮想環境を訪れれば,私たちの脳の中で絶えず起こりつづけている変化と転換の,リアルタイムなメタファーを体験できるのです.

 どうぞ,あなたが満足するまで体験し,あなたの頭の中で何が起こっているのかを,自由に連想してみて下さい.