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アーティストトーク
 
1999年4月16日(金)〜5月9日(日) [終了しました.] ギャラリーD





はじめに


最近ではオフィスや大型のビルディングには植木や造木などをあしらった人工 の自然がリフレッシュ・コーナーなどと称して設置されていたりする.だから そうした人工の自然がCGによって作られモニターの中にあったとしてももはや 驚くにはあたらないかもしれない.50台のモニターの中で風にそよぐ木々は 人々の心を癒すものとして機能するかもしれない.ただしこの森の中では森林浴などできようはずもないのだけれど.

パトリシア・ピッチニーニが提示するこのインスタレーションはひとつのパラ レル・ワールドであり,こうしたCGによる自然が当たり前になったような世界 のフィクションとして見ることができる.もちろんそれを仮想自然のインスタ レーションとしてとらえたとしても一向に構わない.しかしこの作品には,こ の生態系の部外者でもある鑑賞者を内部に取り込もうとする「しかけ」がある.

このことについては作品の一要素であるデジタルプリントがヒントを与えてく れるだろう.そこに表されている標本箱(のようなもの)の中には各樹木の葉 がまさに標本然として収められている.バイオテクノロジーに強い関心を寄せ るピッチニーニは,過去のデジタル・フォト作品においてもミュータントを登 場させて現実に対するデフォルメされたフィクションを作り上げているが,ここでも同種のストーリーが隠されている.しかしこの作品では,鑑賞者自身が それぞれのストーリーを紡ぎ出していただきたい.

森の唯一の住人である鳥はあなたが近付こうとすれば飛び去ってしまう.しか し,そうしたインタラクティヴな行為によってだけではなく,あなた自身の想 像力によってこの森の中を探索すること.すると,そこにはこの作品を単なる シミュレーション的な作品から切り離させる強固なメッセージがあることに気 付く.

畠中実(NTT インターコミュニケーション・センター学芸員)