ICC





はじめに
入場料
参加作家
イヴェント




ポスト・サンプリング音楽論
ミニコンサート
 
1998年6月27日(土)3時30分〜 [終了しました.] ギャラリーD





はじめに


1980年代におけるサンプリング・マシン(サンプラー)の登場によって音楽および音楽制作は大きく変化しました.またその大量生産消費材としてのメディアがCDへと移行したり,デスク・トップ・ミュージックやハードディスク・レコーディングといった制作環境のディジタルへの移行なども象徴的な出来事だといえます.メディアの変化に伴いその環境から発想までもが変化していくというのは当然の帰結なのでしょう.まさに昨今の音楽およびその制作環境はまさにそうしたディジタル化の後にしか発想され得ないような独特な状況を生み出しています.そうした状況の中でさらにまたネットワーク・テクノロジーによる新しい局面が生まれて来てもいます.

ドイツの音響派テクノグループOVAL(マーカス・ポップ)の新作「dok」はクリストフ・シャルルとのファイル交換(File Exchange)によって制作されました.クリストフ・シャルルが制作した音楽をマーカス・ポップが加工処理するというプロセスによるものなのですが,マーカス・ポップはOVAL PROCESSというOVALのサウンドを作るための,その工程を経ることによってすべてOVALのようなサウンドになるというソフトウエアを開発していて,実際「dok」にはOVAL PROCESSは使用していないようですが,この作品もどこをどう聞いてもOVALのサウンドになっています.こうした制作環境やOVAL PROCESSのように個人の制作プロセスを公開して誰もがその類似/相似作品を制作できるようなシステムを導入するということは,制作プロセスを共有,というよりは咀嚼していくような行為としての新しいサンプリングという概念とも考えられるのではないでしょうか.

また同様のコンセプトをコンピューターのソフトウェアの世界で行うGNUというプロジェクトがあり,そのコンセプトにのっとりネットワーク上でそうした音楽制作環境の実験を行うGNUsic project というグループがあります.従来のcopyrightとしての著作権ではなくcopyleftというコンセプトを掲げるこのグループの久保田晃弘は「たとえミュージシャン一人一人の人生観や音楽観が異なったとしても,そこへ向かうプロセス(の一部)は共有可能に違いない」というように表現の最終形態としての完成作品を享受するだけではなくその過程やその他実制作に関わるあらゆるものを享受しようとしているのでしょうか.

芸術表現というものは個性などといった個々人間の差別化の上に成り立つという考えもありますが,古くはある時期のピカソとブラックや,あるマニフェストのもとに集まる芸術運動などのように制作コンセプトや手法が極めて似通った表現を行っている例もあります.これはそのような音楽制作状況の一報告あるいは新局面を提示することにもなればと考えます.