ICC





はじめに
入場料
構想書(1996年4月版)
システム構想図
線の合奏(安斎利洋)
魔法のモップ(森脇裕之)
衣装製作(牧野純子)
当日ワークショップ模様のビデオ
Moppet連画ワークショップ「作品集」
参加作家
イヴェント




Moppet連画ワークショップ
 
1996年9月 [終了しました.]





魔法のモップ(森脇裕之)


■なにをするもの?■Moppetペイントシステムは,「連画」を行うための新しい創作システムとして企画されました.これを使う主役は,子供です.「Moppet」には,「かわいい子供」という意味があります.
このシステムは,簡単に言うと,コンピュータで絵を描く「ペイントソフト」です.パソコンのマウスを使うのではなく,体を動かして広い場所を走り回ることで絵が描けるところが普通と違います.もちろん,ひとりではなく,何人かで一枚の絵を描くことができます.子供たちがみんなで協力して,大きなスクリーン絵を描くこともできます.
■連画について■ここで,連画について,簡単に説明します.連画は,安斎利洋さんと中村理恵子さんを中心に行われてきたネットワーク上の創作活動です.まず,他のひとの描いたコンピュータ・グラフィクス(CG)作品を種絵として選びます.その作品をネットワークを経由してコピーします.これを親として,加工したり引用したりして子となるCG作品を完成させて,再びネットワークに送り返します.このやりとりを繰り返すことによって,複数世代の作品群が連鎖的に生まれていきます.連画では,個々の作品そのものに加えて,影響や乖離が錯綜する作品間の複雑な関係や,作品群が創作されていく過程自体が鑑賞対象となります.
今回は,これまでの連画による経験から一歩踏み出して,より直接的にネットワークを利用することに挑戦してみました.キーボードから何かを打ち込んだり,難しい操作をするのではなく,遊んでいるだけでその姿がそのままネットワークを伝わる仕組み,遠くにいるひとがあたかも隣にいるように思える仕組み,しかもその存在が意識されない仕組みというものを目指してみました.
■動きをとらえる仕組み■今回,子供たちの動きをとらえるために,画像処理装置を使っています.この装置は,2台のビデオカメラの映像から,画面に映った物体の「色」を追跡し続けるものです.その色がどんな位置にあるのか,同時に幾つかの色を,ほぼリアルタイムで計測することができます.2台のビデオカメラを使うと,3次元の情報が得られますから,正確にその色の位置を割り出すことができます.子供たちには,「印」となる色のついたものを持ってもらいます.色は,それぞれ違う色です.
ひとの動きを追跡することができる仕組みは,他にもあります.例えば,超音波センサーや磁気センサーを利用する方法です.それぞれの方法で長所や短所がありますが,今回はとりあえず,ビデオ映像から動きを検知するという直観的にわかりやすい方法をとりました.2つの電子の目が,高いところから子供たちを見つめ続けます.
子供たちが走る「コート」は,ちょうど絵を描くためのキャンバスになります.コートの大きさは,走り回るのにちょうど良い大きさにしてあります.四角いコートの上で走ると,その動きがそのまま四角いキャンバスの上の「筆」の動きになります.ぐるっと回れば「丸」が描けます.ちょっとした身振りも,細かい筆の動きになって伝わります.
子供たちが描いている絵は,天井のスクリーンに映画のように投影されます.ちょうど,空にペンキを投げつけたり,ゴシゴシこすったりするような感じです.壁に落書きするのではなく,空にいたずらするわけです.
■ペイントソフト■少し難しくなりますが,コンピュータが何をしているか説明します.
子供たちが持っている色の印の位置の情報は,「X座標,Y座標,Z座標」の形で,コンピュータにどんどん取り込まれていきます.それぞれの子供に,ひとつずつのペイントソフトが割り当てられて動いています.ペイントソフトは,子供の動きを,ディジタルの「筆」に結びつけて,キャンバスに描く色や線や模様を計算します.
子供の人数分のペイントソフトは,ネットワークで結ばれたパソコンで動いています.このそれぞれから情報を集めて,ひとつの絵にまとめあげる親プログラムが動いています.この親プログラムをペイントサーバを呼んでいます.ペイントサーバは,それぞれの筆の動きを交通整理して合成します.これをビデオ映像に直して,天井のスクリーンに投影するためのプロジェクタに伝えます.この映像を見上げて,子供たちは走り回るわけです.
描き終わった絵は,作品としてコンピュータのデータベースにしっかり保存されます.
■サウンド■コートの上の子供たちの動きにあわせて,音が鳴ります.この音を鳴らすために,コンピュータ・ミュージックのMIDI(ミディ)と呼ばれる仕組みを使っています.絵を描くことと,音を鳴らすこととを同時にすることになります.それも体を動かしてするのですから,ずいぶん欲張りかもしれません.
キャンバスで描かれる絵と,音の鳴り方の関係を工夫してますので,馴れてくると,ちょうど何か楽器を使って作曲してるような感じがすると思います.
■衣装■子供たちの衣装は大切です.衣装で筆の種類を決めるといってもいいでしょう.今回は,素敵な衣装を用意しました.手には,色のついたグローブのようなものをはめてもらいます.シャツなどは,モノトーンをベースにしています.透明なベストには,無線機やアンテナやバッテリを装着します.
■「次」にむかって■今,いろいろと思いつくことがあります. 具体的には,違う場所にある2つのコートにいる子供たちが,交互に絵を描きあったり,同時に一枚の絵に手を加えるようにできるようにしたいと思っています.また,ネットワークに接続された他のパソコンから参加することもできるようにと考えています.

解説(木原民雄)