カール・ストーン
1953年ロサンゼルス生まれ,サンフランシスコ在住.『ヴィレッジ・ヴォイス』
誌で「今日アメリカで活動している最も素晴しい作曲家のひとり」と評された.
カリフォルニア芸術大学で作曲をモートン・スボトニックとジェームズ・テニー
に学ぶ.ストーンの作品は合衆国,カナダ,ヨーロッパ,アジア,オーストラ
リア,南アメリカ,中近東の各地で演奏されている.最近の日本ツアーではコ
ンサートに加え,ラジオ・テレビにも出演した.レコーディング作品はニュー・
アルビオン,CBSソニー,東芝EMI,EAMディスク,ウィザード・レコーズ,ト
ライグラム,ニュートーンの各レーベルからリリースされている.ビル・T・
ジョーンズ,ピン・チョン,折田克子,ブロンデル・カミングスなど,ストー
ンの作品を好んで使用する舞踊家は多い.コラボレーション作品も枚挙に暇が
なく,高橋悠治,山田せつ子,沢井一恵,高橋アキ,木佐貫邦子,赤尾三千子,
ルディ・ペレス,ステラーク,Z'ev,ブルース+ノーマン・ヨネモト,藤舎名
生,大友良英,ヘー・キュン・リー,ミン・シャオ・フェン,美音子グリマー
らと共同制作している.
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ヤン・ウン・セン
カール・ストーン 《ヤン・ウン・セン》はもともと,作曲家の高橋悠治氏
と私のコラボレーション作品として構想されていた.互いに何度もやりとりし
ながら作曲するというコンセプトで,ひとつの作品ができると,それが相手へ
の刺激となり,次の作品の素材として使われる,というプロセスが繰り返され
るわけである.やりとりの手段にインターネットを使えば,「観客」がこのセッ
ションの過程に好きな時アクセスでき,プロジェクトがどんなふうに進化して
いくのかを見届けることができるはずである.このアイディアにそって,私は
過去に制作したいくつかのコラボレーション作品に新たに手を加えて使用する
ことを考えていた.中でも《ジャクズレ》(高橋悠治との共作)はMIDIのコン
ピュータ・データをふたりの作曲家/演奏者がリアルタイムで交換しあうとい
うものだったし,CD作品の《モノガタリ——アミノ・アルゴット》(大友良英
との共作)もふたりの作曲家がそれぞれ素材を作って交換し合い,それをベー
スに作曲する,というプロジェクトだった.どちらの場合も,交換が何度か繰
り返されて全シークエンスがコンピレーションされ,それが最終的な作品となっ
た.
《ヤン・ウン・セン》ついてのディスカッションを始めた高橋氏と私は,互
いに作曲家ではあるが,交換する素材は必ずしも音や音楽作品でなくていい,
詩や画像もあり得るだろうという点でまず一致した.
残念ながら,健康上の理由でユウジはあと何日かで公開という時になって,
プロジェクトからおりることを余儀なくされた.切羽詰まった段階でコラボレー
ションの相手がいなくなった私は,コンセプトを一から見直すのではなく,仮
想のパートナーを創作するという手段をとることにした.この「コラボレーショ
ン」は単にアート作品だけではなく,手紙のやりとりによっても支えられてい
く.つまりこの作品の意義は,時間の流れの中で曲がどう進化していくかを試
すだけでなく(私自身,つねに自分の作品をサンプリングし,それをさらにサ
ンプリングするということを繰り返しているわけだから),「サイバースペー
ス」における仮 想 性を認識することでもあるのだ.榊原健一氏の提案で私は
空想上の人物のパーソナリティについてしばし思いをめぐらし,P・M・D・ス
ペアと名付けた(『カルカッタのチャールズ・アイヴス』).スペア氏の経歴
にも手紙にも作品にもナンセンスな要素を十分にばらまいておいたから,注意
深い観客なら氏が実在の人物ではないことに気付くだろう.さらに作品が進行
していくうち,氏がちょっとしたノイローゼに陥ることにもした.
私は作曲家だから時間をベースとした創作をしている.作曲にはサンプリン
グの技法もよく使う.しかし現在のインターネットは,まだこうした条件に対
応しきれていないという実感が私にはあった.完成した曲は容量が大きすぎて
アクセスできないか,サンプリング・レートや解像度の低下によって再生音の
質がきわめて悪くならざるを得ない.そこでひとつのチャレンジを試みること
にした.時間と進化というテーマをめぐる考察を,音楽によってではなく,視
覚的に表現してみようと思い立ったのだ.その素材としてはユーコ・ネクサス
6嬢が私のためにスキャンしてくれた豊富な画像を使うことにした.
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ふたりのアーティストがネットワークを通じ,手紙や画像のファイルを交換し
ながら仮想の創作セッションを行なった.これはその記録の一部.会期中,カー
ル・ストーンと仮想のセッション相手であるP・M・D・スペアは,すでに制作
した作品から素材を選んで交換しあい,インタラクトしながら次の展開につな
げる,という方法で数々の作品を共同制作していった.インターネットという
メディアを利用することによって,現実には一度も会ったことのない(そして
今後も決して会うことのない)両者の間で,本格的なオーディオ=ヴィジュアル
作品の創作活動が行なわれたことは注目に値すると言えるだろう.手紙のやり
とりも,動画像とクイックタイムの共同制作ファイルも,WWWでアクセスする
ことができる.
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カール・ストーン氏の作品および作品概要は運営側の作業の遅延のため,期間
中には完全かつ正確な状態では公開されませんでした.
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