eナントカに ITうんちゃらについての断想

1. eビジネスの収益性のこと.
1.1 立地

日本の不動産屋さんやデベロッパーは,いまとてもホクホク顔になっている.「いやぁ,最近はちょっとよさげなところに物件をつくると,ビットなんとかの人たちがもう言い値で入居してくれるからねえ.いや,一見してとてもまともな商売してるとは思えないけれど,とりあえずお金を持っていて入ってくれるから.とりあえず床が埋まればこっちはとりあえずオッケーだし」.

さらにマンハッタンでも,似たような現象が起きている.「最近はドット・コム連中が大挙して押し寄せてきて,賃料倍にしてもその場で言い値で契約するもんだから,賃料はどんどん上がるし,物件価格もおかげで高騰して,前からいるオレたちはいい迷惑だよ.これまで20年間商売してきたようなところが,契約が切れると同時にいられなくなって移転しちゃったりするし」と友人が文句を言っている.実際,賃料はがんがん上がっているし,商業物件だけでなく住宅の賃料もすさまじい上がり方を見せている.

しかしそれにしても.

そもそもドット・コム企業の一つの強みとされていたのは,コストがかからないということだったはずだ.ドット・コム企業は十分なネット環境さえあれば,高価なオフィスや物件を必要としないはずではなかったのか.なぜかれらは,マンハッタンに来たり,渋谷ビットバレーなんてところに群れる必要があるのか.さらに人材にしてもそうだ.ネットを通じて安い人材を地方から調達することは,ドット・コム企業においては十分可能なはずだ.もちろん一部ではそれが行なわれている.例えばバンガロール[★1]とか.でもそれ以外のドット・コム企業でそれが有効に行なわれているか? 必ずしもそのようには思えない.むしろ,既存の人材集積に近いところにドット・コム企業は寄っていっている.

この点では,ポール・クルーグマンの「White Collar turns Blue」というエッセイが非常に示唆に富んでいる.このなかでかれは,100年先からいまの20世紀末をながめたら,という想定で,都市や労働の分布について次のような記述をしている.

「20世紀後半には,伝統的な高密高層都市は,どうしようもない衰退の一途をたどっているように見えた.最新のテレコミュニケーションのおかげで,定型作業のオフィス労働者たちが物理的に近接している必要がなくなり,バックオフィス業務を郊外のオフィスパークに移す企業が相次いだ.(...)でも郊外で一時的に栄えたような仕事――おもに,比較的定型化されたオフィス作業――は,1990年代半ば以来大量に削減されつつあった.結果として一部のホワイトカラー職業は,低賃金国に移転した.それ以外はコンピュータにとってかわられた.そして海外に輸出したり,機械で扱えなかったりする仕事は,ヒューマン・タッチの必要な仕事だった――これにはフェイス・トゥ・フェイスのやりとりが必要で,あるいは物理的な材料に直接作業をする人々が,物理的に近いところで作業しなくてはならないような仕事だ. (...)


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