Feature: 500 Books for  the 21th Century

ICC Feature

IT革命に賭ける

インタヴュー/松本大
増田文雄[取材+文]



数十億円の報酬を捨てた理由――ゼロからの起業

――松本さんは,「ウォール街最高の栄誉」と言われるゴールドマン・サックス[★1]のゼネラル・パートナー(共同経営者)の地位を捨て,ゼロからマネックス証券を起業し,金融関係者をアッと言わせました.1994年10月のゼネラル・パートナー就任は,大変な記録破りだったそうですが.

松本――英語圏で教育を受けていないゼネラル・パートナーは,創業者のマーカス・ゴールドマン[★2]以来,私が初めてでした.また,ゼネラル・パートナーには30歳で就任しましたが,史上最年少記録を塗り替えたようです.

――そのゴールドマン・サックスを98年11月に辞められましたが,半年後に予定されていたIPO(株式新規公開)まで待てば,経営者でありオーナーでもあるゼネラル・パートナーの松本さんには巨額のIPOプレミアム報酬があったと見られています[編集室註:ゴールドマン・サックスのIPOプレミアム報酬の金額については,松本氏は守秘義務協約のためこのインタヴューでは,答えていない.数十億円という推定金額は別途の報道資料等による].なぜ,その巨額の報酬を捨てて起業に踏み切ることができたのですか?

松本――インターネットがもたらすIT革命は,確実に金融のパラダイムを転換させるという確信がありました.しかしインターネットはドッグ・イヤーの世界です.いろいろなリスクを考えたうえで迷いに迷い,悩みに悩みましたが,「いまや時間そのものが価値を持っており,ここで起業を先延ばしすると,取り返しがつかなくなる.日本にいる金融専門家として,自分がいまやるべきことはこれだ」という結論に達しました.

つまり時間軸を考慮し,よりリスクの低いほうに動いたのです.例えばカジノで「これから3時間プレイしなければこれだけチップをあげる」と言われたとします.「それはラッキーだ」と貰う人もいれば,「それはいらない,いまは流れが向いてきているから」とプレイをする人もいるでしょう.「ここで3時間プレイしないリスクは大きいから,それだけチップを貰ってもいまやめるのは嫌だ」と.そして3時間プレイしつづければ,もしかすると先にチップを貰った人よりもたくさん稼げるかもしれません.すべてはリスクの比較の話です.

―― IPOの報酬は貰って,そのかわり起業を半年だけ遅らせる,という選択肢はなかったのでしょうか?


目次ページへleft right次のページへ