ICC Review


「サウンド・アート――音というメディア」展関連企画
アーティスト・トーク/パフォーマンス
2000年2月6,11日 ギャラリーD



作品の鑑賞者への提示の仕方には二つの方法があるだろう.それは例えば鑑賞者に対して自由な受容を勧めるもの.他方は作品を成立させているコンセプトを明確に提示するもの.作品は作家の手を離れて鑑賞者自身によって醸成されるものであるとすると,自由な解釈の余地が残されているものと,そうでないもののあいだには大きな乖離があるように思える.例えば理論やコンセプトで「武装」することが想像力を飛翔させる妨げになるのではないかと.しかし,クリストフ・シャルルも言うように「ときには言葉にすることも大切」なのではないかと思う.

2月6日に行なわれたクリストフ・シャルルによるアーティスト・トークでは自身の制作の背景,展示作品に関連する話などを,映像制作でコラボレートした新堀孝明を交えてレクチャーした.来日してから中谷芙二子や山本圭吾などから受けた影響,不確定性や作家による非決定など,ジョン・ケージやヘニング・クリスチャンセンからの影響など興味深い話が開陳された.また,偶然性など作者が企図しない部分を作品にもちこむことは,作家の怠慢なのではないかという会場からの意見に対し,むしろそこから思い掛けないものが生まれる可能性があるとの応答がなされた.さらに自身の作品や新堀によるヴィデオ作品が上映された.

m/s(佐藤実),角田俊也,志水児王の3人が属する制作活動組織WrKは,CD作品や展示においても,常にそのコンセプトを明示してきた.2月11日に行なわれたプレゼンテーションは,オペラシティタワーにある非常灯の明滅と音響のドップラー効果を用いた志水の作品,横須賀・長浦港におけるフィールド・レコーディングとその場のスライドを投射した角田の作品,ギャラリーDという空間の固有周波数を測定し,あらかじめギャラリーDで録音された音からその周波数と一致するものを残して音をつくったS.A.S.W.名義による佐藤の作品がそれぞれ上演された.しかし,厳格な鑑賞を求められるかのように見える彼らの作品も,そこには解釈の強制や理論武装はなく,かえってその原因と結果のあいだにあるイマジネーションのなかに私たちを遊ばせてくれるように思える.もちろんそこには作品それ自体としての魅力がなければならないのは言うまでもない.

作品に言葉を与えると言っても,作家それぞれに相違点がある.そこから作品にさらなる意味を付加するのは私たち受け手のイマジネーションにほかならない.

[畠中実]


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