ICC Report

アーティスト・トーク/パフォーマンス

「サウンド・アート」展関連企画
アーティスト・トーク/パフォーマンス
2000年1月28 −30日 ギャラリーD



「サウンド・アート――音というメディア」展の関連企画としてオープン初日の28 日から30 日までの3 日間,来日作家によるアーティスト・トークおよびパフォーマンスが行なわれた.多くのサウンド・アーティストたちと同様,この展覧会の出品作家たちの特徴に, レコードやCD などを独立した作品として発表するレコーディング・アーティストでもあるということがあげられる.レコーディングされた音は,展示作品と関連していたり,あるいはまったく独立していたりする.最近ではこれらのCDは輸入レコード店などで入手すること が容易になっているし,ライヴ・パフォーマンスを目にしたりする機会も増えているが,作品を作者自身が解説する機会はあまりない.本企画では,作品からだけでは直接伺い知ることのできない制作の背景にある概念を明らかにし,展示作品をさらによく理解するための一助になることを意図した.プログラムは各日作家のパフォーマンスとレクチャー,あるいは対話のかたちをとって進行した.聞き手は音楽評論家の佐々木敦氏に担当していただいた.

◎1 月28 日/デヴィッド・トゥープとマックス・イーストレイ
最初にトゥープによるレクチャーが行なわれ,身の周りにある音とその聴取について,つづく鼎談ではテクノロジーの進歩にともなう音,音楽聴取のされ方の変化などが語られた.彼は著書『Ocean of Sound 』に顕著なように,過去の前衛/実験音楽から現在の電子音楽やオルタナティヴな音楽までを貫通・横断する視点で聞き,語ることのできる稀有な批評家でもある.またイーストレイは,ヴィジュアル・アートと異なるサウンド・アートの展示について語った.ほかの作品と音が混在してしまう状態を避けられないサウンド・アートの展示は,出品作家が展示空間を協調してつくりあげる「一種のコラボレーション」であることを強調した.
ひきつづいて行なわれた彼ら二人のパフォーマンスは日本では1993 年以来のことであり,待ち望んでいた人も多かったのではないだろうか.ステージ上には二人のほかにイーストレイによる自動音響機械が並べられ,トゥープはスティール・ギターやフルート,時折いろいろな小道具を使って音を織りなした.演奏はあらかじめ録音されている具体音などのCD ,自動音響機械が発するリズムを基調音として展開された.イーストレイが演奏していたのは一本の弦をヴァイオリンの弓で演奏する自作楽器「Arc 」である.

◎1 月29 日/カール・ミカエル・フォン・ハウスウォルフとピーター・ハグダル
当初出席が予定されていたブランドン・ラベルが急病で欠席したため,まず彼のCD 作品が流され,つづいて日本では初紹介になるハグダルが自身の過去の作品についてのレクチャーを行なった.インタラクティヴ作品やインターネット上で作品を発表しているハグダルは事物の「影響」関係をテーマに制作を進めており,それは展示作品にも反映されている.また,ハウスウォルフによるパフォーマンスは自分の過去の作品をDJ さながら次々にレコードによって紹介するものであった.ハウスウォルフはハフラー・トリオなどのノイズ・グループに所属していたこともあり,多くの録音作品も制作している.演奏された曲はいずれも持続音や反復による催眠的な楽曲であったが,フリップ&イーノなどの影響や冷蔵庫など身の回りの音への興味から制作した,と本人が言う初期作品は興味深いものだった.曲が変わるたびに白板に その発表年を書き付けたり,レコードを換えながらギャラリーを歩き回ったり立ち止まったりする仕種は,まさに「パフォーマンス」と言えるものだった.
その後のアーティスト・トークでは,資本主義的なアートへの批判など自身のアートに対するスタンスが語られた.ま た,「霊の声」の採集といった彼のほかの活動について,それが実際に可能かどうかを問うよりも,それが可能だと想像することが重要である旨を説いた.さらに彼自らが国王をつとめる架空国家「エルガランド〜ヴァーガランド」についても語り,いわゆるサウンド・アーティストにとどまらないその幅広い活動の一端をかいま見せた.

◎1 月30 日/ブランドン・ラベル,マーク・ベーレンス,カールステン・ニコライ
復調したラベルは,ギャラリーの天井から小さなスピーカーを6 個環状にぶら下げたセットでパフォーマンスを行なった.それぞれのスピーカーからはカセットテープに録音された牛の鳴き声や会場の空調送風口に取り付けられたマイクロフォンから取られた音などが流された.さらに缶の中に枯れ葉とマイクロフォンを入れてつくりだされる音響は,初日のトゥープのレクチャーにおける「音の神秘的な感触」とどこか繋がるものがあった.つづくマーク・ベーレンスは展示作品に使用されているサウンド・ファイルを用いたパワーブックによる演奏.曲中の意図的な沈黙部分は,スタティックな展示作品とは異なる時間を意識させるため挿入したという.カールステン・ニコライによる演奏は短い発振音を使用した,リズミカルでダンサブルとさえ言えるものであった.曲にあわせて粒子が踊るようなCG の映像が印象的だった.パフォーマンスのあと,佐々木氏を交えた座談はどこかリラックスした雰囲気で行なわれ,三者三様のサウンド・アートに対するアプローチなどが語られた.観客からの質問も多数なされた.

連日会場は満席で,サウンド・アートやこの種の音楽に,いま多くの関心が寄せられていることをあらためて確認させられた.

(畠中実)


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