戦争のエポック/芸術のメルクマール

R ・ローティやJ ・ハバーマスらが論争に加わったのだが,これは思想上の「ヨーロッパのアメリカ化」と言えるかもしれない.つまり消費文化状況の受け皿の成熟度の差とも言え,J ・ボードリヤールの『シミュラークルとシミュレーション』の出版が81 年であることを考えると,実質的な事態はアメリカと日本で先取りされていた.

ともあれジェンクスの論は,現在の新宿副都心の光景に見るようなミラーグラスの超高層ビルにおいて,近代建築の理念が実現されたこと.この鉄とガラスとコンクリートの四角い箱は,世界中どこでも建てることができるのであり,その行き方に対する批判として歴史主義的ポストモダン装飾の復権と,リージョナリズムの固有の表現形態が注目された.それはデザインそのものの問題というよりも,土地の値段が建築費よりもはるかに高額で,むしろデザイン料はタダに近い,という市場経済原理と深く関わっている.何より冷戦時代の近代建築デザインは,30 年代にすべて方法化されていたものであり,すでに形骸化されたものとして眼に映りはじめていた.

一方,貧富の差を解消するというルーズヴェルトやヒトラーの30 年代の信念が,資本主義でも社会主義でも,またファシズムでも「勝利」できなかったということが,あらためて明らかとなったのも,この80 年代である.そこで,剥き出しのマーケットの論理として脱モダン・デザインが活性力となるとみて,新しいイメージを装ってポストモダン・スタイルは氾濫していった.貧富の差,つまりフォーディズムを起源とする「機能的で使い良いものを安く大量に生産すれば皆が幸福になれる」という「平準化」の論理が完全に潰えたのであり,事実上その証明をしたのは,その理念によって20 世紀を推進してきたモダン・デザインによる広告文法,とりわけグラフィック・デザインの分野である.


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