戦争のエポック/芸術のメルクマール

マサチューセッツ州に生まれたB ・フラーは空輸可能な《ダイマキシオン・ハウス》を考案し,1933 −35年には「翼のない飛行機」と呼ばれた《ダイマキシオン・カー》を試作.当時流行ったリシェイプの流線型パッケージ・デザインではなく,流体力学の構造研究の成果として,また熱処理されたアルミ合金の利用によって,フラーの計画は具体化された.このことはアメリカ輸送機関史上に一つのエポックを形成し,アルミ合金の使用は,大規模な航空機産業の幕開けを促した.アメリカは,T 型フォードから映画・ラジオ・電化製品・広告の伸長によって「貧困に対する最終勝利」を信じたが,大恐慌によって35 年には1500 万人の失業者を生み出した.

1920 年代から量産大衆車の製作を「夢」としていたF ・ポルシェは,33 年ヒトラーの依頼を受けて,国民のための車《フォルクスワーゲン・ビートル》の設計を始めた.年来のコンセプトによる試作を重ね,3 8 年に《VW38 》というプロトタイプが製作されたが,39 年のポーランド侵攻によって第二次大戦が始まり,ドイツ国民には一台も手に入らなかった.ヒトラーは,遡ること33 年のベルリン・モーター・ショーの演説で,国民の貧富の差をなくす文明の利器として「国民大衆車」の生産を呼びかけていた.

1936 年のスペイン内戦は,第二次世界大戦の序曲と言われ,また「戦争と革命の時代」と呼ばれるこの30 年代は,A ・ブルトンが24 年に「シュルレアリスム第1 宣言」,30 年に「第2 宣言」を発表して,いわばその星雲状のエネルギーを発散していた.この「宣言」をめぐる時代は,これまで記してきたように,ヴェルサイユ体制への不満,ロシア革命とスターリニズム,ファシズムの台頭,スペイン内戦,第三世界の胎動,というように,現代を画する時期である.


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