Feature: Diagnostics of the 20th century


戦争のエポック/芸術のメルクマール
The Epoch of War/Monuments of Art

高島直之
TAKASHIMA Naoyuki



III ―1919-1929
戦間期その1 :インターナショナリズムと
「時代の原理」

マルセル・デュシャンの1910 年代のシリーズ作《階段を降りる裸体》は,螺旋階段のもつ,天空への上昇性と秘教的領域への降下性との,相反する象徴性を背後に置いている.そこに身体の運動する時間を組み込み,機械のエロティシズムを示唆することにおいて,絵画における「マシン・イメージ」を集約している.なぜなら「機械」とは,人間の身体機能を代替させる「機能性」に本質があったからだ.

この1910 年代半ばにみるような機械の装置と総合芸術運動の結合による同時多発性は,世界戦争としての第一次大戦が,主権国家が宣戦布告して国際法に則って戦争を行なうような古典的形態を超越し,その国家的利害が近代的な産業主義の世界性の枠に収まらなくなったことを暗に示している.国家を超えて産業主義が国際的にリンケージしていくその大きな流れと,前衛芸術の総合的な運動とは相同的であった.実際,字義通りのインターナショナルな理念と指標が,大戦後の20 年代に提示されていく.

その一例として,V ・タトリンの《第三インターナショナル記念塔》がある.これはロシア革命の精神の祝賀とソヴィエト・ロシアの経済発展を期するものだが,その「機械と技術」の崇拝において1889 年パリ万博で建設されたエッフェル塔を意識し,それを凌ぐ400 メートルの高さを予定していた.「生活の中へ芸術を」という意味を込めた「構成主義」という言葉が実践用語となったのは21 年頃からであり,この塔はロシア構成主義の象徴となった.タトリンはこの高さ6 .7 メートル(6m70cm )の模型を1920 年の革命記念日に公開した.上昇する螺旋の構造をもち,内部の構造を傾斜した主軸で吊り下げ,内部構造自体が動くようになっている.


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