ICC Report

G-Display

"Future Design Symposia"

1999年10月10日,11日
ICC 5階ロビー



ポスターや広告などのグラフィック・デザイン,また洋服などのファッション・デザインは一般的に知られているところであるが,今日デザインの領域は多方面に拡がっている.コンピュータのなかのソフトウェアをはじめ,コンピュータと人のやりとりなどをデザインするインタラクション・デザインやインターフェイス・デザインが近年,研究開発の対象として取り上げられるようになってきた. それは,デザイン業界も意識改革が進み,モノをデザインするのではなく,モノをとりまく出来事(event)もデザインするという考え方がひろまりつつあることを反映していよう.こうしたデザイン界の動向を受けて,このシンポジウムは,コンピュータやインターネットの発達により出来事がどこまで拡張していくのかを考える2日間となった.

初日の武邑光裕,中谷日出による基調講演「未来のデザイン」では,デザイナーという立場ではなく,デザインを外側から見つめつづけている両氏のデザイン論が語られた.武邑からは世界中のコンピュータ上で展開されている新しいコミュニケーション・ツールと表現技術が紹介され,インターネットを介した出会いの場は進化しつづけていることを窺わせた.一方,中谷は彼自身がNHKで実験的に行なっている未来のデザイン像を紹介した.スタジオという概念がなくなり,どこででも情報をやりとりすることができる,インタラクティヴなテレビの未来はメディアによる問題提起として興味深い.

暦本純一は「情報の空間」と題し,コンピュータと人間と空間の新しい関係,新しいかたちを紹介した.パソコンに内蔵されているカメラを通して空間を取り込むことにより,空間にあるモノの情報を得ることができるシステムなど,コンピュータが進むべき未来を開示した.

スコット・フィッシャー,藤幡正樹による「ヴァーチュアル・リアリティとコミュニケーション」は,フィッシャーの研究の推移を見る場となった.HMD(ヘッドマウンテッド・ディスプレイ)やアスペン・ムーヴィー・マップなど現在では当たり前となっている技術が,どのような考えで設計されたのかが紹介された.藤幡は自身が制作しているVR空間でのコミュニケーション・ツール《ナズル・アファー》を紹介し,ヴァーチュアル空間のなかのコミュニケーション・ツールの作り方を考える場となった. 2日目には10月7日から9日まで東京の多摩美術大学で行なわれた情報デザイン国際会議「ヴィジョン・プラス7」の模様が紹介された.その中心となった多摩美術大学教授・須永剛司,同大学助教授・アンドレアス・シュナイダーによるプレゼンテーションとなったが,会議の企画から運営までをもデザインの対象とする両氏の新しい視点は参加した観衆を驚かせたようだ.

IDEO JAPANの深澤直人は「We are seeing illusions」と題し,普段行なっている発想方法やデザイン手法を紹介した.彼の視点は鋭く,人の何気ない仕草を見つめている.例を挙げれば,荷物をもっている人に携帯電話がかかってきた際にアンテナを歯で引っ張り上げる仕草を見逃さない.そしてその行為をデザインに結びつける.彼がデザインした携帯電話のアンテナの先にはジェリービーン(のようなモノ)がついている.

2日間にわたって行なわれた今回のシンポジウムでは,デザインに対する今日的な考え方を提示し,発想を中心として未来のデザイン像を考える場となった.会期中,4階ロビーでは未来のデザインのひな型となるものが展示された.岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS )の学生である石橋素,纐纈大輝による《G-Display》は液晶モニタを傾けるという不思議なインターフェイスでコンピュータを操る秀作であった.電気通信大学助手の中西泰人による作品は,テーブル上の本をめくるとそのページに関連したホームページが自動的にテーブル上に映し出されるというものである.この技術は現在も研究が進められており,ヴィデオ・オン・ディマンドやテーブルに写された映像を直接指で触れることによって操作することができるようになっている. このほかにもビル・ヴァープランク(インターヴァル・リサーチ社),佐藤啓一(イリノイ工科大学)もパネリストとして参加し,両氏の行なっているインターフェイス・デザインの産学協同プログラムが紹介された.なお,このシンポジウムの詳細は,ICC電子図書館内で閲覧できるようにする予定である.

(伊東祥次)

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