「情報」を柱にした大学改革

パソコンは研究教育の目的ではなく,あくまでも道具

歌田――こうした情報関係の学科をつくるとなると,大学の設備も充実させる必要があるのでしょうね.

奥島――いま,大学に設置しているパソコンだけでも1万台を超えています.5万人の学生と5000人の教職員にインターネットのEメール・アドレスを与えて,全員がアクセスできる情報環境にしようという計画はほぼ達成できたのではないかと思っています.職員は1人1台のパソコンをもっていますし,教員も全員パソコンをもっています.それから24時間オープンのコンピュータ・ルームもつくっています.この3年間,早稲田は,全学の情報環境のレヴェル・アップには最大限の努力を払っているつもりです.

 ただ,私たちが考えていることは,情報化を考えているほかの大学とは多分違うだろうと思っています.私たちはあくまでも,情報環境というのは研究教育のインフラだと考えていますので,パソコンの職人を養成するような教育研究体制にもっていくつもりはないんです.

 私たちは大学の研究教育というものを通じながら,学生たちに志を植えつけるというのが一番であって,技術を教え込むことを大学の教育の目標の一つにしていくことは考えていません.技術は自分で習得すればいいので,そこにはウエイトをおいていません.設備を整えれば,学生たちはおのずから飛びつくわけですから.学校のカリキュラムとして,大々的にやっていくつもりはないのです.

 いまのようにEメール・アドレスを全員に与えるようになる以前の4年前の段階の調査でも,アドレスをもっている学生数は3万2,300人,日本では早稲田が一番でした.だから,大学が環境さえ整えてやれば,学生たちはあとは自分たちでやってくれるという確信をもっております.

 授業でも,例えばパソコンを利用した文学部の語学教育システムなどは,おそらく早稲田が一番進んでいるぐらいじゃないかというように,いろいろな新しい芽が出てきはじめましたね.そういうものが私たちの楽しみで,環境を整えていくとおのずから特色ある教育方法が生み出されてきています.

歌田――学生のほうはパソコンを使って情報交換などがたちまちできるようになると思うんですけれど,ただ,先生方のほうがどう使っていいのか困っているという話もときに聞きますね.

奥島――それは私は当然だと思うんですよ.だけど先生たちの教育をしていたのでは世の中に追いつけません.先生たちは,別にパソコンを使えなくても,しっかり授業をやってくれればそれでいいんです.しかし若い先生たちは猛烈に使っていますから,その点では私たちは全然心配していません.

 私たちは要するに「パソコンで遊んでください」という思想なんです.かつてのように,大学に入ってからパソコンのイロハを教えなければいけない時代は過ぎているわけですね.

 情報化はそういうふうに進んでいくのです.そうでなかったらホンモノにならないと思っています.ですから私たちがいまやっている作戦というのは,情報環境を整備するだけ,そうすれば結果としておのずと研究も教育も情報化が急速に進んでいくのです.そういう信念に基づいていますし,実際そうなっていますね.

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