モザイクから遠く離れて

チャンネルからストリームへ

 1994年11月,ローリング・ストーンズがMBone(マルチキャスト・バックボーン)を通じてライヴ・アクトを生中継したとき,国内でその映像をまともに受信できたところはほぼ皆無だった.それから5年近くが経過した現在では,ダイアルアップ・ユーザーの誰もがRealPlayerなどのアプリケーション・ソフトを使って,世界各地のストリーミング・コンテンツを楽しめるまでになっている.

 この分野では長らく,リアルネットワークスが独壇場を築いてきたが,同社ストリーミング再生ソフト「RealSystem G2」[図5]に対して,マイクロソフトの「Windows Media Player」[★10]が追撃し,さらにアップルコンピュータの「QuickTime 4.0」が加わることで,デファクト・スタンダードをめぐる競争が激しさを増している.例えば,7月21日にアップルがマックワールド・エキスポで発表した「QuickTime TV(QTV)」はQuickTime 4.0をベースにしたストリーミング配信のための総合的なアーキテクチャであり,Akamai Technologiesとの提携により15か国・900台の専用サーバーにより安定した配信を可能にするという.スティーヴ・ジョブズ暫定CEOによるエキスポでの基調講演の内容も,このQTVを通じて中継された[図6].

 ストリーミングが市民権を獲得しつつある一方で,既存のブロードキャスト・メディアとインターネットの融合も確実に進むものと予想されている.例えば,オンライン・サーヴィスで提供される番組表をもとにテレビ番組を予約し,MPEG2でハードディスクに録画された番組を放映の途中でも最初から視聴ができるReplayTVのデジタル・セット・トップ・ボックス(STB)[★11]など,ネットワークとテレビをハイブリッド化してオン・ディマンド放送を実現するアプローチがある.マイクロソフトのWebTVも,デジタル・ケーブル・テレビのSTBに発展し,この方向へと向かうことになる.

 また,配信側のソリューションとしても,サン・マイクロシステムズが発表した「StorEdge Media Central」[★12]のように,伝送インフラ(地上波,ケーブルテレビ,衛星,インターネット)の別なくMPEG2フォーマットのコンテンツを管理するプラットフォームが実現しつつあり,放送というメディアはいままで密接不可分だった伝送インフラを離れて本格的に「ワンソース・マルチユース」化していくことになろう.

 ストリーミングの台頭は放送をインターネットが飲み込む可能性を予感させるが,それが必ずしもブロードキャストの死へとは繋がらない.両者は互いの技術特性を活かしてハイブリッド化し,オン・ディマンドなデジタル・コンテンツの配信サーヴィスへと進化していくのだ.

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