ICC Report

the2nd

ザ・セカンド
――オランダのメディア・アート展
オープニング・シンポジウム

1998年11月14日
ICC5階ロビー



シンポジウム全体を通して,「ザ・セカンド」展出品作品の性質に対して,「人間的である」という点が特に強調されていた.例えば,金澤氏は,作家の生の心や意図がはっきり見えるものが多いと指摘し,中村氏(司会)は,ローテクではあるものの,通常のメディア・アート展に比して,17世紀オランダ静物画の伝統やフェルメールに連なる風土や風景への視線とそれを裏打ちする人間の体温,そして,それらに「メメント・モリ(死を忘れるな)」の響きを読み取れると指摘した.

そもそもモンテヴィデオは,20年間携わったテレビの世界に失望したコエルヨ氏が,テクノロジーに「人間的要素」を付け加えようとして始めたものであった.シンポジウムの冒頭でコエルヨ氏は,「テクノロジーの最先端を追っていると,作家は内容を失い,一般の人々とのコンタクトを失う危険がある」と問題提起をし,彼のメディア・アート観がハイテクの追究とは別の次元にあることを強調した.

議論は多岐にわたったが,テクノロジーの進展とともにメディア・アートが引き受けてきた,複数性・複製性・インタラクティヴィティなど,従来とは異なる新しい美術の定義が,その基調となっていた.主たる具体的なテーマとしては,メディア・アートの保存とそれに対する作家/キュレーター/施設の姿勢,テクノロジーの進展に伴う機材の歴史的な制約およびソフトとハードの問題,オランダにおける公的なアートへの助成と作品の質との関係,作品の主題の問題,インタラクティヴ・アートにおける観客を包括する作品環境,物質性とコンセプト,メディア・アートによる美術教育の変化,旧来の美術がメディア・アートと共存し交差する意義の大きさ,テクノロジーによる表現の均質性とオリジナリティの可能性など,いずれも重要な論点を含んでいた.

最後に,とりわけ注目すべきコエルヨ氏の発言を紹介したい.すなわち,メディア・アートは,草創期のヴィデオ・アートのように現代美術の媒体としての認知を求めようとして,「メディア・アート」に分類されることに自足していた段階をすでに終えている.多様化する媒体は,現代美術という総称のなかに組み込まれ,アーティストが自分の必要に応じて媒体を選ぶ段階へと移行しているのだ,と.欧米の現代美術の現況を踏まえたとき,この指摘はいまや自明の事実とも見える.しかし,コエルヨ氏がメディア・アート・インスティテュートであるモンテヴィデオを20年間牽引してきた事実こそ,この発言を重いものとしている.

パネリスト:
レネイ・コエルヨ(ゲスト・キュレーター)/金澤毅(美術評論家)/ベルト・スフッター(出品作家)/ペーター・ボーガース(出品作家)/ケース・アーフィエス(出品作家)/櫻井宏哉(作家)
司 会:
中村敬治(ICC副館長兼学芸部長)

[上神田敬]

目次ページへleft right次のページへ