ICCレポート

NEWSCHOOL

ニュースクール
「コミュニケーションとメディアについて考える」
2月11−15日/19−21日/25−27日
ICCギャラリーD


ICC開館後第1回目,通算第4期にあたるニュースクールは,「コミュニケーションとメディアについて考える」シリーズを開催した.今回特にコミュニケーションの重要なツールである「ことば」に照準をあてた背景には以下の事情がある. 今日のマルチメディアと言われるコンピュータ,通信を利用したテキスト,画像,音声を組み合わせた表現技術の普及にはめざましいものがある.日本の歴史を振り返ると,漢字の使用,かなの発明,漢字かなまじり文,毛筆から硬筆へ,熟語による翻訳,そして,カタカナによる外来語の輸入と,歴史の中で「メディア」と「ことば」の拡張が行なわれてきた.その一方では,文字文化の発達にともない失った「もの」も存在するだろう.漢字によって「やまとことば」の表現には変化が生じている.毛筆文化の時代には,文章の上手・下手という概念がなかった(らしい)が,今日では文章が上手・下手ということをメディアとして評価するようになった.逆に,字の記述に味わいを求め,字の表現力を鑑賞する時代があったのもまた事実である.

つまり,今日のマルチメディアの登場により,われわれはさらにどのような「メディアの拡張」を行なうのか.仮説と実証例を織りまぜながら上記の疑問を解決するべく検討をすすめていくこととなった.これらの問題意識から今日の「ことば」を取り巻く世界を,コンピュータ・メディアという観点から再構築を試行した11回の講座(うち1回はワークショップ形式)を開催した.

第1ステージ[2月11日(水)−2月15日(日)]は,「ことば工学への招待」として,NTTコミュニケーション科学研究所(以下CS研と略記)知識処理研究部の研究成果を中心とし,代表質問者として歌田明弘氏,また,各回にゲストをまねきながらの講演と討論を織りまぜたシリーズとなった.

11日――CS研松澤和光主幹研究員による「『ことば工学』の地平」と題して,ことば工学の考え方,周辺の技術分野についての概要紹介,ことば工学の定義,4日間のカリキュラムについての解説.

12日――「『ことば工学』が拓く意味世界:人間の常識/機械の常識」がテーマ.コンピュータにとっての常識とは何か? コンピュータに常識を理解させることは可能なのであろうか? 常識の工学的捉え方についてCS研松澤和光主幹研究員が考察.また電子辞書から完全に自動構築をしている「概念ベース」(「ことば工学」の基本技術,言葉のもつ意味をデータベース化したもの)についてデモを交えてCS研笠原要研究主任が紹介.

13日――「『ことば工学』の応用/意味に基づく関係の可視化:『3D情報検索』」と題するCS研飯田敏幸主幹研究員の講演.多量の情報を効率よく取捨選択する手段として意味に基づく情報間の関係を三次元的に表現して情報検索する技術について紹介.また「機械から見た言葉:『日本語語彙大系』」と題して,CS研大山芳史主幹研究員が日英機械翻訳技術の一環として開発した,コンピュータが使うための辞書『日本語語彙体系』について,その構築思想,技術体系,開発秘話などを紹介.さらにゲストのジャストシステム・デジタル文化研究所田中裕一氏により,自然言語処理の歴史,現状,その問題点の提示をしていただき,概念ベースについての概要,これからの自然言語処理の方向性についての討論がもたれた.

14日――「『ことば工学』の展開/『ことば』で考えるコンピュータ」と題して,拓殖大学工学部石川勉教授による「概念ベース」を用いた柔軟な推論方式(解答するための情報が不足していても常識で補って人間のように考えるための研究)についての紹介.また「『ことば工学』の展開/『ことば』であそぶコンピュータ」ではNTTアドバンステクノロジーの金杉友子研究員による「概念ベース」を用いたクロスワードパズル,しりとりなど,ことば遊びをコンピュータで実現する技術を紹介.最後に松澤主幹研究員が4日間を通してのまとめ,常識の扱い,知識の欠如の補完,コンピュータのふるまいについての現状と今後の展望について講演した.

15日――「『ことば工学』実践編『ことば』に親しむ」は「B級機関の楽しみ方,言霊チャットの遊び方」と題してワークショップを開催した.前半では「ことば工学」によるコンピュータの言語感覚の表現を試みた展示作品について,メディア・アーティストの八谷和彦氏とともに,参加者が鑑賞会を実施した.後半では,「概念ベース」技術を実感してもらうことを目的に開発した展示作品「言霊チャット」を使ったゲームを通じて「ことばとコミュニケーション」を体験した.

第二ステージ[2月19日(木)−2月27日(金)計6回開催]では,「コミュニケーションツールの拡張」と題して,コミュニケーションやことばのかたちをさまざまに表現しようとしている方々の事例を紹介し,問題提起を行なった.

19日――「デジタル・タイポグラフィー」と題して,MITメディアラボ「美学と計算グループ」のリサーチ・アシスタントのトム・ホワイト氏が伝統的な文字文化を基礎にしながら,デジタル技術がタイポグラフィック・デザインの表現領域をいかに発展させることができるかということを作品例を紹介し考察した.

20日――「『ハイパーテキストからハイパーメディアへ』:esthetics guerillaからの報告」として,京都造形芸術大学メディア美学研究センター武邑光裕所長の講演.ニュースクール期間中展示された作品のデモの紹介に合わせて,テッド・ネルソン氏の「ハイパーテキスト」の概念を今日的に料理する考察.そして,ことばがテキストの役割から新たな表情となって感性を動態フォントとして表現する事例の紹介.さらに,これら表現を実現するために必須となるデジタル・アーカイヴの構築についての考察を行なった.

21日――「『デジタル・コミュニケーション・デザインの研究課題』:電子メディアならではの表現手法の研究」と題して国際メディア研究財団古堅真彦主任研究員がコンピュータを用いたデザインの変化について講演.既存のデザイン手法をメタファーとしたコンピュータの利用から,「計算」という特徴を活かした表現を容易に利用できるようにするための取り組みについて実例を用いて報告.また,コンピュータのアルゴリズムを理解するためのワークショップの事例をヴィデオを交えて紹介.後半は,ICCビエンナーレ準グランプリをとった前林明次氏と,アート的表現と技術的な表現のはざまにある諸問題,解決方法についての討論を行なった.

25日――近年DTPの世界のみならず,ヴィデオなどへ活躍の領域を広げているグラフィック・デザイナーの戸田ツトム氏の講演.「理解・デザイン・非言語」と題して,DTPとヴィデオという領域におけるメディア,ことばの認識,表現方法の相違,共通点について,また両者の融合する未来の姿について論じた.

26日――「新しい象形文字言語を培養するには」と題して,コンピュータ・アーティストの安斎利洋氏にる報告.漢字が本来もっていた創語能力を現在のコンピュータ日本語処理システムがはばんでしまっているという.いま,ことばの領域の拡張を考えるときに,創語能力を回復するツールの開発こそコミュニケーションの発展を促進するはずであると,システムのデモを交えた考察を開陳した.

27日――「コミュニケーションツールの拡張」は多摩美術大学情報デザイン学科須永剛司教授が,今回のニュースクールの流れを総括した.情報というかたちをデザインすることについて,またその教育方法論についての考察がなされた.

期間中(2月11−28日)には,ギャラリーDにて,京都造形芸術大学メディア美学研究センター,財団法人国際メディア研究財団,多摩美術大学デザイン学科,NTTコミュニケーション科学研究所のネットワーク/マルチメディア技術を駆使して「ことば」による新しい表現に挑戦した事例・作品を展示した.
より詳しい情報についてはICCホームページを参照.

URL: http://www.ntticc.or.jp/newschool/98/newschool98_j.html

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