Dialogue/[対談]ロジャー・ペンローズ+佐藤文隆

フィジカルな世界と意識,心の世界

――最後になりますが,物理学は意識や心の謎を解くのに非常に重要な助けとなるという点について,あらためてお聞きしたいと思います

ペンローズ――逆のかたちで言い換えてみましょう.物理学なくしては,われわれは意識や心の問題を解くことはできない.私は,物理学が,意識や心の何たるかを教えてくれるというほど楽観的な考えをもっているわけではありません.ただ,物理性を構成しているものが何かということについて,より深い理解が得られるまでは,精神性を構成しているものを理解するのに他に道はない,そう考えているだけです.

これをネガティヴな意見と捉えるなら,このように言いましょう.われわれは,何よりもフィジカルな世界をもっともっと知る必要がある,フィジカルな世界の振る舞い方,その法則について,さらに学ばなければならない.そのうえで初めて,意識や心の問題に対する理解は先に進むことができるのだ,と.私は,物理学が意識や心が何なのかという問いに答えを与えてくれると言っているわけではありません.そんなことはまったく言っていません.私の論は,特定の領域において特定の進歩がなされなければならないという方向に向いています.この特定の領域とは,主として状態収縮であり,量子力学であり,量子世界が時空とどう関連しているかということ,すなわち,われわれがいまだ明確な理解を得るに至っていない領域なのです

[1998年4月10日,京都にて]

ロジャー・ペンローズ
オックスフォード大学教授.一般相対性理論の世界的権威.宇宙論,ブラックホールについて理論的な研究を行なう.著書に『心は量子で語れるか』(講談社),『皇帝の新しい心:コンピュータ・心・物理法則』(みすず書房),『ペンローズの量子脳理論』(徳間書店)など.

さとう・ふみたか
1938年生まれ.京都大学理学部教授.ビッグバン,量子宇宙などの研究を行なう.著書に『一般相対性理論』(岩波書店),『現代の宇宙像』(講談社学術文庫)などがある.

やまだ・かずこ
1951年生まれ.翻訳,編集,著述.SF,科学技術関連の仕事がメイン.現在,J・G・バラードの最新作Cocaine Nightsを翻訳中.

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