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特集/20世紀のスペクタクル空間

 

動き始めたアンビシャスなノードたち
モンテビデオ/TBA

 通称モンテビデオのフルネームは長い.モンテビデオ/TBA,オランダ・メディア・アート・インスティテュートが正式名称である.解説すると,ふたつのビデオ・アート・ギャラリーが合体して,オランダにおけるメディア・アートの中枢機関になったのである.

 1978年,まずモンテビデオがスタートした.テレビ放送に愛想をつかしたプロデューサーがビデオ・アートの可能性に情熱を抱き,個人で始めたギャラリーである.そして1983年,オランダのメディア・アート協会がTBAを作った.タイム・ベースト・アーツ,つまり時間芸術のためのギャラリーである.しかし,当初は世の中でほとんど関心を持たれていなかったビデオ・アートが国際的な盛り上がりをみせ始め,さらにコンピュータやインターネットの普及という追い風を受けて,このふたつの組織の活動は勢いよく広がり始めると同時に,オーヴァーラップするようにもなった.そして政府が一本化を望んだこともあって1993年合体し,この長い正式名称になったというわけである.今年3月,フロア拡張のため,モンテビデオはカイザースグラハト通りの建物に引っ越しをする.

 モンテビデオは「電子メディアを使ったあらゆるアートの制作,ポスト・プロダクション,アドヴァイス,技術的サポート,研究,展示,流通のすべてが,あらゆる国のあらゆるジャンルの人間によって可能であるような」多面的な組織を目指している.現在の活動の柱は3つに分かれている.メディア・アート制作のバックアップ,作品の流通と展示,そして研究開発である.

◆アート・ラボ
 モンテビデオによる制作バックアップの仕方は,最新のプロ用機材を揃え,それをアーティストたちに廉価で利用してもらうという,ZKMなどに比べるとかなり気軽なシステムになっている.メディア・ラボと呼ばれるこのセクションには常駐のテクニカル・スタッフがいて,アーティストを助けている.最近では演劇制作者や舞踊家,ミュージシャンたちにもこの施設が使われ始めている.

 さらに,アーティストを対象にしたセミナーやワークショップを開いて,マルチメディア,ヴァーチュアル・リアリティ,遠隔コミュニケーション,インタラクティヴィティ,アニメーションといった各ジャンルの技術者に制作の手ほどきを受けてもらう,というプログラムも定期的に行なっている.

◆流通戦略
 優れたメディア・アート作品をより多くの人の目と耳に触れさせるために,この組織は権威としてお高くとまることなく,かなり現実主義的に動いている.流通というのは通常こうした組織の弱い面となっているが,モンテビデオは例外だ.たとえば1991年から毎月1回チャンネル・ゼロ(アムステルダム有線放送)でアート作品を放映しているし,ヴァージン・メガストア・チェーンでビデオ作品を販売したり,店内で流したり,といった積極的なプロモーション活動を展開しているのだ.

 モンテビデオが組織する展覧会は,まず建物内部にあるルネ・コエリオ・ギャラリーで行なわれるものが年に約10回.政府の依託によって巡回展を企画制作することもあって,1990年にスタートした「イマーゴ――オランダ現代アートの世紀末」はオランダ最大のメディア・アート展として大成功した.

 他のミュージアムで開催する展覧会を共同企画・制作することもある.1994年にはオランダ映像ミュージアムと「視点」を共同で企画制作,今年1月から3月までアムステルダム市立美術館で開催された「ザ・セカンド」も同美術館と共催した.この展覧会は今後日本を含め世界10カ所を巡回することになっている.  国際フェスティヴァルへの参加もモンテビデオの重要な仕事だ.フェスティバルというのはプロモーションの手段としてはとりわけ効率が良く,主要なものにはすべて参加しているのだそうだ.

 一方,オランダ各都市に散らばる5つの美術館(アップル・ファウンデーション,フローニンゲン美術館,ボイマンス美術館など)のメディア・アート・コレクションを管理するという役目もモンテビデオは担っている.コレクション用の作品をプロモートするだけでなく,各美術館のコレクションを保存し,データベース化するという長期的な仕事である.

◆R & D
 メディア・ラボと呼ばれるモンテビデオの研究開発部門は,アート制作のためのアプリケーション・システム開発をメインに行なっている.3Dアニメーション・システムの「SIAS」,人工知能プログラム「アルブレヒト・スフィア」,作曲家とヴィジュアル・アーティストによる「イメージ・キーボード」という楽器の開発などはこのメディア・ラボで開発されたものだ.

 これらの開発プロジェクトには大学や科学研究機関,企業も参加している.SIASはアムステルダム大学,エンスヘーデ美術アカデミー,MIT,アルブレヒトはスタイム・ファウンデーション(即興電子音楽用スタジオ),フィリップス社,そしてソフトウェアメーカーBSOベヘア社.こうした高等教育機関や企業との共同関係を今後うまく発展していけるかどうかが,モンテビデオのような組織にとっては決定的な意味を持っている.

◆財源と運営
 モンテビデオはファウンデーション形式の非営利組織である.運営資金は現在,50%が政府自治体(教育文化科学省,アムステルダム市,大蔵省)からの助成金で,つまりなんと残りの50%は自己調達である.その大半はアート・ラボの収益だ.機材を安く提供しているとはいえ,利用しているアーティストの数はかなり多く,それがモンテビデオの重要な財源となっているのだという.

◆メディア・アートのリンケージ
「全ヨーロッパのための総合芸術ラボ」がモンテビデオの理想である.設立当初のような単なるビデオ・アート・ギャラリーを超え,あらゆるメディア・アートという枠さえ超えて,デジタル時代のヴィラ・メディチになろうとしているようだ.そのためにモンテビデオは,ヨーロッパに散らばるメディア・アートの組織をネットワーキングしようとしている.まず,ZKMとル・フレノワ国立現代アート・スタジオの仲介をつとめながら,この3組織のリンケージを実現させる,これが現在の課題だ.この基幹リンクができれば,その後のネットワーク化はかなりスムーズになり,ニューメディアのポテンシャルはますます深まる,というのがモンテビデオの目論みである.

■モンテビデオ ホームページhttp://www.montevideo.nl

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