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特集/20世紀のスペクタクル空間

 

動き始めたアンビシャスなノードたち
ソロス現代アート・センター(SCCA)

 カールスルーエやリンツのハイテックな施設とは対照的に,アクション先行でニューメディア文化を支援しているところもある.経済的に豊かではなく,情報やコミュニケシーションのチャンネルも狭い,しかし,だからこそデジタル・メディアや通信テクノロジーが強力な武器になる――という社会も世界にはたくさんあるのだ.ソロス現代アート・センター(SCCA/Soros Center for Contemporary Arts)は,そういう文脈の中でリアリティを持っている文化施設である.

 じつはSCCAという名前の組織は,中・東欧やロシア,南アフリカなどに現在24カ所ある.というのは,SCCAはあの大投資家,ジョージ・ソロスが創立した非営利財団「オープン・ソサエティ・ファンド」を核とするアート活動支援のための組織で,それが24カ国でそれぞれ自主的に活動しているのである.自主的というのは国からも自治体からも自立した,地域に根差した組織ということだ.ソロスは株式市場のファンドで儲けた金を,NGOとしてのファンドにどんどんつぎ込んで,開かれた社会をつくるという自らの理想のために,さまざまな政治的ないしは社会的アクションを取っている.SCCAネットワークを運営しているのは,アートには社会に風穴をあけていく力があると考えるためだ.

 プラハSCCAは1992年の設立以来,チェコの若手アーティストやアート専門家たちの活動をバックアップしている.アーティストに対しては展覧会やカタログ制作のための助成金を出す一方,展覧会をオーガナイズし,アート関係者や組織の資料を収集し,作品のプロモーションもしている.と,ここまでは基本的にはアート・ギャラリーの活動内容だが,ここへ来て新しい構想の実現に向けて動き始めている.「プラハ・ニューメディア・センター」の設立である.

 プラハSCCAは1995年に主催した展覧会「オルビス・フィクトゥス」を機に,メディア・アートに積極的にかかわり始めた.この展覧会はチェコ国内のニューメディア・アートを系統的に紹介したもので,チェコでは初めてエレクトロニック技術を使い,76社もの企業からスポンサーシップを得た.ニューメディアの視聴覚アートへの応用にも意欲を燃やし始めたSCCAは,現在,シリコングラフィックス社とプラハ国立美術館に働きかけて,この新施設をSCCAの中に作るための準備をしている.そこには最先端のテクノロジーを装備してデジタル・アートの創作と研究,そしてディスカッション,レクチャーなどのイヴェントも行なう予定だ.  インターネットをアートに結び付けるための「アートとインターネット」プロジェクトは,SCCAネットワークの共同プロジェクトとしてすでに始まっている.もともとオープン・ソサエティ・ファンドは,個人ベースの自由なコミュニケーションを社会に浸透させていく力を持つインターネットをフル活用してきたが,このプロジェクトはニューメディアを使ったアートが,インターネットを介するとどんな面白い可能性を生むかという研究である.

 プラハSCCAの建物は市中心部の16世紀の歴史建築.だが,専用のギャラリー・スペースはないため,展覧会はさまざまな場所が使われている.チェコの現代アート展は毎年開催していて,1996年末から97年2月まではチェコの若手アーティスト12人の作品を集めたビエンナーレ「Zvon '96」をプラハ市立美術館と共催した.さらに,SCCAはインターネットにチェコのアート・シーンを紹介するページを開いていて,これはチェコの現代アート界への貴重なアクセス・ツールになっている.

 直接的な社会貢献を強く意識するSCCAのような組織は,西側の文化施設とは別のサイクルで動いている.そこで成果の差異が広がれば広がった分だけ,メディア・アートは面白くなっている,ということだろう.

■プラハSCCA ホームページhttp://www.fcca.cz/

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