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特集/20世紀のスペクタクル空間

 

動き始めたアンビシャスなノードたち
ル・フレノワ国立現代アート・スタジオ

「スタジオ」という名前をつけたのは,アーティストの仕事場,スタディ(study)する場所,そして映像・視聴覚メディアのスタジオ,という意味をすべて重ね合せられるから――とディレクターのアラン・フレシェールが説明する通り,ここはフランスでもユニークな実験的複合施設である.大学院レベルのアート・スクール,展示スペース,映画館,メディアテーク,映画やメディア・アートの制作スタジオが一カ所に集まっていて,同時多発的に現代アートが創作され,研究され,展示・上演されていく.ZKM同様,ここも21世紀のバウハウスにならんとしているようだ.

 ル・フレノワはベルギー国境の近くに位置するトゥルコアンという町にある.ここには今世紀初頭にできた大型の映画館やレスリング場や馬場など,70年代の初期まで栄えていた大衆娯楽施設があって,それがル・フレノワという名前だった.今年4月に完成予定の新施設は,ひなびた娯楽施設をそのまま活かし,新しいスペースを増築して全体を1枚のハイテックな屋根で覆ったもの.設計は国際コンペで優勝したスイス人建築家,ベルナール・チュミによる.施設全体のオープニングは11月で,10月には大規模なオープニング展が開かれる予定だ.このオープニング展はシネマテーク・フランセーズのディレクター,ドミニク・パイニのキュレーションで,20世紀の視聴覚芸術を総合的に回顧するものだという.

 ル・フレノワはフランス文化省の管轄だが,運営資金は文化省とノール・パ・ド・カレ県がおのおの46.6%を,トゥルコアン市が残りの6.8%を出している.地域産業の血行を良くするためのマグネットとしてのプロジェクトでもあるのだ.

 この現代スタジオが持つ特徴のひとつは,大学院とアーティスト・イン・レジデンスのプログラムとを絡ませている点だ.週1回のレクチャーを除いて,生徒はひたすら作品の制作に専念する.それを指導するのがアーティスト・イン・レジデンスたちで,生徒は著名なアーティストや映画監督,あるいは舞踊家たちの手取り足取りによって自分の作品を制作する一方,アーティストのアシスタントとして制作に加わる,という恵まれた教育システムになっている.

 もうひとつの特徴は,ふたつ以上のジャンルを交差させることを制作課題にしている点だ.絵画,彫刻,デザイン,写真,映画,ビデオ・アート,デジタル・アート,音楽,演劇,建築,ダンスなどを好きにぶつけあって,ビデオ・ダンス,ビデオ彫刻,インタラクティヴ・インスタレーションといった「ハイブリッドで不純な」表現形式にチャレンジせよ,と生徒は要求されている.

 アーティスト・イン・レジデンスとして招かれるのは常時10人.展覧会のための新作(アート作品や映画)を制作するのが課題で,それぞれ専用のスタジオが与えられる.そのうち3人はメジャーなアーティストで招待期間は1年.ほかのアーティストは半年前後,滞在する.アーティストも生徒も,作品の制作にはプロ用の最新機材を使うことができるし,外部協力者(テレビ・プロデューサー,美術館,大学,ダンスカンパニーなど)と組んでもいい.というより,積極的にそうするよう求められている.

 ル・フレノワの展覧会は毎年数回の大規模なものから,アーティストや生徒の作品展示など小さなものまであって,ボールト屋根の大ギャラリー空間やそのまわりの変化に富んだ空間で行なわれることになっている.映像作品が上映されるふたつの映画館はデイタイムは生徒に使われ,夜になると普通の映画館と同じく,商業映画が一般上映される.もちろん実験映画やインデペンデント作品が中心で,フィルム・フェスティヴァルも年に一度開催される.中央の三角屋根の大空間では演劇やパフォーマンス,コンサート,ライヴ・イヴェントが行なわれ,時には映画制作のスタジオとして使われることもある.

 ル・フレノワのひとつの理想は,他の教育・研究機関とリンクして,それぞれとのコラボレーションが活発に行なわれていくことだ.すでにモントリオールのケベック大学とは関係を築いていて,パリのIRCAMや国内外の美術大学ともパートナーシップの話が進んでいる.建設工事の大幅な遅れのためにオープニングも遅れ,国際的な知名度はまだ低いが,最近は下火のフランスのアート界や映画界をふたたび活性化していく可能性に期待したい.

■ル・フレノワホームページ http://www.le-fresnoy.tm.fr/

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