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特集・サイバーアジア

汪建偉


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《事件−過程・状態》
(1993,「ポスト'89中国新芸術展」, 香港アートセンター)
写真提供=ギャラリーQ

image 《INPUT-OUTPUT》
(1995,「NEW ASIAN ART SHOW−'95」,東京・大阪)
Photo=LIGHT ON
写真提供=ギャラリーQ

 汪建偉は特殊な経歴をもつアーティストだ.軍歴6年を誇る元中国人民解放軍兵士で,しかも最後は軍曹にまで昇格したそうである.除隊後,ライフル銃を絵筆にもちかえ,敵陣からキャンヴァスに突撃の照準を変えた彼は,その昔,白楽天や蘇東坡がその美しさをうたった杭州にある浙江美術学院を卒業.現在はインスタレーションを中心に,世界を股にかけて活躍する中国前衛芸術界のトップ・アーティストとなった.

 汪建偉のコンセプトは一言でいえば「情報伝達のメカニズム」である.作品はそれ自体が一つの実験装置であり,展示はイコール実験開始を意味する.たとえば1993年の香港アート・センターでの個展に発表された《事件−過程・状態》は,テレビ,ヴィデオ,ガラス容器等を使用した複数の装置を組み合わせ,実社会での情報伝達システムをモデル化したものである.作品そのものが芸術作品に姿を変えた一つの系,一つの社会を構成しており,ある一定の秩序をもった環境に情報が入った場合,情報は環境にどのような影響を及ぼすかを実験し,統計を取る.

 作品には最初に初期条件,作品内に仮設された社会を巡る情報が与えられる.前面に配置されたテレビ画面の中に映し出される情報(運動,学習,仕事etc.)は,張り巡らされた伝達ルートを通じてシステム内を経由する.伝えられた情報はそれぞれの装置(色付きの水が入ったビーカー等),すなわち社会を構成する一単位の中で,予めセッティングされた異なる環境に影響を与えた後,次の装置に伝達される.各システムが与えられた情報にいかに反応するかは,作者本人にもわからない.この過程でそれぞれの装置での反応は,他の環境とは違う範疇,換言するならば異なる概念の同一情報に対する判断の相違とその可能性を示すものであって,けっして反応のあり方によって環境を否定するためにあるのではない.

 邁進する改革開放政策の下,現代中国社会を駆け巡る豊かな情報は,ときには突出する企業や個人を生み出し,社会全体に不協和音を奏でる原因ともなる.情報ネットワークが毛細血管のように張り巡らされた現代社会は,けっして他との関係を無視した排他的行動を許さない.アーティストも社会の一員であり,作品発表が社会との関わりの手段ならば,作品によって社会構造を検証することも可能ではないのか.汪建偉は急速に変化する現代中国社会の歪みに注目し,作品を通して情報と社会との根本的構造を問い直そうとする.日本でも95年に東京と大阪で開催された「NEW ASIAN ART SHOW―'95」で,等価交換をテーマにソフト・プラスティック製の耳のおもちゃと,客が自由に同価値と判断した私物と物々交換する《INPUT-OUTPUT》を発表した.

 その他現在も進行中のプロジェクトに,四川省温江県で小麦を機械と人力でそれぞれ植え,発育状態を観察する《循環−種植》がある.

(くりやま あきら・ギャラリー ディレクター)

image 写真提供=ギャラリーQ
■ワン・ジエンウェイ
1958年,中国四川省生まれ.兵役に就いた後,90年代初頭から美術活動を開始.北京,香港での個展開催のほか,日中韓の国際展に参加.96年はオーストラリア・ブリスベーンでの「第2回アジア太平洋現代美術トリエンナーレ」に参加.



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