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特集ハイパーライブラリー
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コンテンツのデジタル化

 私たちは次世代のメディア社会において,歴史的に人類が蓄積してきた伝統的な文化資源をデジタル・ネットワーク環境にどう組み込んでいくことが可能なのだろうか.最新のデジタル技術は,日々加速の度合いを増し,デジタルな“情報”に変換されたコンテンツ群は,ホームページの隆盛が示すとおり,自己増殖を続けている.

 メディア美学の視点を離れてみても,私が現在週の半分を過ごしている京都の文化的な資源が,電子ネットワーク環境においていかなる変容を遂げ,新しい創造を生み出していくのかは,京都という都市そのもののもつ具体的な課題としておのずとクローズアップされよう.京都造形芸術大学がこのほど設立した「メディア美学研究センター」では,物理的な都市空間としての京都に集積されてきた文化資源の一端を,インターネットという電子情報網を利用しながら世界に発信することで,いわば“ヴァーチュアル京都”とでも呼べるようなサイバースペースを出現させることを目的としている.

 ネット上にデジタル化されたコンテンツは,オリジナルがモノである場合には,後世のための保存や分類・検索環境を整えることが主な目的とも言えるが,オリジナルとコピーの境界線を技術的に消滅させるデジタル環境下においては,情報の複製に対して,むしろ従来とは異なる積極的な価値を見出さねばならないだろう.実在する都市としての京都に集積されてきた美術・建築・工芸や,さまざまな感性材・経験材など,有形/無形の財産をリソースとしてインターネット上にアップし,そこにアクセスを試みた人々はそのデータを自由に複製し,自分の感性に応じた“作品”に作り替えることができるのだ.例えば,古くからある染色工場の端切れの繊細なデザインをアップすれば,その独特の紋様と色使いに理解を深めながら,さらにそれをもとに自分なりのデザイン・リソースを創造することができるわけである.

 ネット空間では,物材,観光材に象徴されるような固定的な空間としての京都ではなく,分散・転用・カスタマイズを可能とする柔らかく開かれたイメージ空間としての京都が生成されていく.電子的な手段を通じて,世界に開かれた場に身をさらしながら,伝統的な文化資源がハイブリッドに変容してゆくこと.コンテンツのデジタル化とは,そうした変容の一過程であると言えよう.

(たけむら みつひろ・メディア美学)