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レイナー・バンハム『第一機械時代の理論とデザイン』

1960
彦坂裕

「日常生活の事物や家族のヒエラルキーや人間関係などはほとんどそのままであった過去の発展の例とは違って,われわれの時代の技術革命は,生活の些細な事物にも視覚的,聴覚的に同様な形で変革がおし及ぼされるために,われわれに与えられる影響力は測り知れぬほど強大なのである」(pp.1―2).

 レイナー・バンハムは,1960年に『第一機械時代の理論とデザイン』を上梓した.
「われわれはほとんど一世紀半このかた『産業時代』に生きてきた.そして目下,コントロール・メカニズムに大きな変革が起こりつつある.(……)われわれはすでに『第二機械時代』,すなわち,家庭電化と合成化学の時代に入ってしまっており,『第一機械時代』,すなわち,本管から動力をひき,機械を人間の尺度に合せて変換させるという時代を過去のものとしてふり返ることができる」(pp.2―3).

 イギリスの前衛建築家グループ「アーキグラム」の理論的後ろ楯であり,未来派を建築史に復活させ,テクノロジーと文化の関係に対し最もスリリングな視点を提供し続けたバンハムの主著である本書は,19世紀末から20世紀前半に生起した建築や美術,デザインの問題を,変容きわまりないテクノロジー及びテクノ・ソサエティがつくり出す関係空間の中に明快にプロットしたものとして,産業社会期以降の文化事情を総合的に展望し得る基本文献となっている.

「『未来派』のダイナミズムと『アカデミー派』の慎重さとの間に展開されたのが『第一機械時代』の建築の理論とデザインである」(p.6)と彼自身語るように,ここで彼は欧州合理主義,イタリア未来派,オランダの運動,キュビスム,ル・コルビュジエ,バウハウスに見られる思想,シンボリズムをめぐる革新や変転,そして偽善や紛飾を理知的に分析していく.アメリカの運動についてはごくわずかな言及があるだけだが,60年代以降欧米の建築運動に本書が無視し得ぬ影響力を与えていたことは疑い入れない.

 本書はきわめて客観的に描かれているが,同時にバンハムのイデオロギー的立脚点は,サンテリアからフラーへ架橋される機械時代のテクノロジーと空間文化のアクティヴな相互交通であろう.なお,以後のバンハムのインダストリアル・デザインや映画,ポップ・カルチャー,ガジェットをめぐる刺激的な論考の方法的認識の全ては,本書の中に集約的に表現されている.

(ひこさか ゆたか・建築家)

レイナー・バンハム『第一機械時代の理論とデザイン』(原広司校閲,石原達二+増成隆士訳),鹿島出版会,1976.

    

■関連文献
ジークフリード・ギーディオン『空間・時間・建築』(太田実訳),丸善,1969.
ロバート・ヴェンチューリ,デニーズ・スコット・ブラウン,スティーヴン・アイズナー『ラスべガス』(石井和紘,伊藤公文訳),鹿島出版会,1978.
デニス・シャープ編『合理主義の建築家たち──モダニズムの理論とデザイン』(彦坂裕,菊池誠,丸山洋志訳),彰国社,1985.
トム・ウルフ『バウハウスからマイホームまで』(諸岡敏行訳),晶文社,1983.
トム・ウルフ『現代美術コテンパン』(高島平吾訳),晶文社,1984.
アドルフ・マックス・フォークト『19世紀の美術』(千足伸行訳),グラフィック社,1978.
ハンス・ゼードルマイアー『中心の喪失....危機に立つ近代芸術』(石川公一,阿部公正訳),美術出版社,1965.