http://www.ntticc.or.jp/pastactivity/event?id=382&lang=jp
新進アーティストを紹介する「エマージェンシーズ! 004」での谷口暁彦初の個展(4/19-6/24)に合わせ,自らその多彩な活動に通底する「ダングリング(宙づり)」というコンセプトについて語り,作品を生で体験してもらうイヴェントを開催した.
まずライヴ・パフォーマンス《con》を開始.谷口はカメラを眼に装着し,箱形のインターフェイス内部にセンサーとともに手を差し入れ,仮想の3次元空間で描くかのように音を操作する.ここでの谷口は禁欲的な外部観察者(眼と身体)でありながら,ヴァーチャルとオーヴァーラップした実空間そのものへ侵入する両義的存在(手)となっている.トークでは,固定点から向こう側(遠近法的空間)を覗くことで妄想を膨らませるという《con》のスタンスがデューラーやデュシャンの作品に言及しつつ述べられ,この作品がルネサンス以降に確立された視覚および美術システムを新たなインターフェイスを通じて宙づりにする野心的試みであることが明らかになる.
谷口によれば「宙づり」とは,「メディア」を一種のコピーや翻訳作用と見なし,それに含まれるジレンマ─理想的なコピーは,「コピー」としての存在意義を喪失する─を調停するため,自らの「妄想と誤読」によって生み出したものである.それを「メディアの質感」と創造的に読み替えていく探求が実際のプロジェクトに即して紹介されていく.
改造したラジコン・ヘリコプターを操作して周波数をコントロールする《The Helicopter Band》では,音楽のもつ重力(特に西欧近代的な諸システム)や社会,空間における上下のヒエラルキーを宙づりにしてしまうメディアとしてヘリコプターが選ばれ,《music(of)score》では,音を生み出す素材として「紙」に注目,楽譜をめくる際のノイズや,楽譜の制作における紙のシワの積極的誤読が行なわれている.あるいは《Bended Camera Group》では,デジカメに改造を施すことにより,カメラ内(電気信号)と外(被写体)との分岐が無効になり「二重のポートレイト」が生成されることが重要である.
もともと学んだ彫刻で,複製のプロセスにおいて表象と支持体がスイッチしていくことに触発されたという谷口は,上述の作品においてメディウム(ヘリコプター,紙,カメラ)の具体的な素材性─「素材の抵抗感」(谷口)─によって図と地,内と外などをスイッチすることで,既存のヒエラルキーを宙づりにしてしまう.透明であるはずのメディウムが,媒介する両者に影響を及ぼしはじめること.それが最大限に発揮されるのが,現場のフィジカリティや偶然性をとりこんでいくライヴにおいてだろう.
トーク後に行なわれた弦楽四重奏《music(of)score》(世界初演)では,(譜面通りに)中盤で演奏よりも楽譜をめくる音が目立ちはじめた.音の「図」と「地」が同一地平に混在した状況は,概念的なヴォイド(空白)もしくは宙づりの創出とともに,ジョン・ケージやフルクサスの往年のコンサートのような機知に溢れた空気感を場にもたらした.《The Helicopter Band》は,開始直後に谷口の操縦するヘリが墜落するなど,(思惑どおりに)アンコントローラブルなものが召還され,その意味での「成功」をおさめることとなった.