ICC

展示概要・作品

無響室


撮影:木奥恵三

無響室は,部屋全体が音の反響を吸収してしまう素材で囲まれています.わたしたちは通常,周囲の空間の広さなどを音の反射によって把握しています.しかし,この音の反響や反射がなく,外部の音からも遮断された特殊な空間では,自分の位置を空間の中に定めることができない状態になるため,音響的には空間の中に宙吊りになっているのと同じことになります.無響室に入ると圧迫感や不安感などが体験されるのはそのためです.また,その空間の性質を利用して,音を媒介とした聴取者と環境との関係を人工的に作り出す実験が行なわれています.

アメリカの音楽家ジョン・ケージ(1912-1992)は,かつて無響室に入り完全な沈黙を体験しようとしましたが,音から遮断されたはずの耳に聴こえてきたのは,「血液の流れる音」と「神経系統の音」という二種類の身体内からのノイズでした.それにより,ケージは「沈黙は存在しない」という認識に至り,そこから20世紀の音楽史を塗り替える作品が生み出されたのです.

お知らせ
オープン・スペース 2009 内無響室は、9月1日—18日の間,展示替えのため公開を休止いたします.なお,9月19日より,前林明次《メトロノームと無響室のための作品》を展示いたします.