ICC
ICC メタバース・プロジェクト
エキソニモ(千房けん輔/赤岩やえ)×ドミニク・チェン「仮想空間のリアリティとは」
過去の履歴データから,未来を予見する

赤岩:ところで,人の一生のデータをずうっと記録して取っておくのはミラーワールドとは言えないの?

ドミニク:あれは「ライフログ」って言われています.だから,ミラーワールドならぬ「ミラーマン」?(笑) ライフログは人の行動履歴をとりあえずハードディスクに記録しまくって,その映像や音声データなどをどうインデックス化するか,という研究になっていますね.

赤岩:じゃあ,例えばミラーワールドにミラーマンがいっぱいいるようなことって,ありえるの?

ドミニク:それに近いものだと,暦本純一さんが「PlaceEngine」(http://www.placeengine.com/)のデモとして作ったマップがあって,すごく示唆的です.まだ実用化はされていないと思うけれど,例えば東京の地図がGoogle Earth上に移っていて,そこに自分の「存在確率分布マップ」がある[※15].一週間の活動の中で,みなさんは新宿に行ったり初台に行ったり渋谷に行ったり,いろいろな場所に移動しますよね.その履歴から一週間のあいだにその人がどこにいるかという,確率論的なヒートマップを作っていく.そうすると,例えば赤岩さんは「火曜日の12時08分に,××何丁目にいる可能性が一番高い」ということが分かってくる.過去のログから未来を照射するリアリティ.

千房:そういえば思い出したのが,あるオンラインゲーム(EverQuest II)の4年間の全ユーザーのプレイ記録が,アメリカの科学振興協会に研究材料として提供された,という話[※16].例えば,ゲーム内で殺し合っているときの行動履歴が全部残っているわけ(笑).

ドミニク:それはキーボードやコマンドのレベルで?

千房:座標とアクションじゃないかなあ? あと時間.それを元に人間の心理や行動を解析するらしい.

ドミニク:gumonjiの中嶋さんに,僕らが開発した「TypeTrace」[※17]を見せた時,彼は「WorldTrace」というのをやってみたいと言っていました[※18].gumonjiのユーザーのありとあらゆる履歴を取りたいと言っていて,それは一企業としての論理なんだけれど,不正ユーザーの行動パターンをTypeTrace的に細かく取っていくと,そのパターンが抽出できるから,監視カメラの代わりにキーロギング(キーボードでの入力内容を読み取る)をするような使い方ができる,という.

千房:クレジットカードでも,そういうのがあるらしいよね.だっておかしなカードの使われ方をすると,カード会社からすぐに確認の連絡が入ったりするもの.

赤岩:実際に悪用されたことがあったからね(笑).いきなり「ロシアで買い物しましたか?」って電話がかかってきたの.たぶんユーザーの行動パターンから「この人がこのタイミングでロシアで買い物をするはずがない」というふうに,異常が検出されたんでしょうね.

千房:うちの《断末魔ウス》[※19]も,マウスが壊れるまでのログを記録しているの.それはカーソルの座標とマウス自体の映像なんだけど,同時に記録してある.鑑賞者は自分のデスクトップ上で自分のカーソルでもって破壊の様子を擬似体験してしまう.

ドミニク:あれはマウスにすごく人格が宿りますよね.あの震える動きを見ていると,哀れみを感じるもの(笑).

千房:でも,あれによって「永遠に死なない存在」になるんですよ.カーソルの存在の根拠は「しょせん座標データだ」っていうことなんですけど.逆に座標を記録してあれば,完全にリアルな存在が再現できる.オンラインゲームでの行動だって「いつどこで誰がどうした」という座標軸の数値さえあれば,それが人間なのかロボットなのか判別できないレベルで完全に再現可能ですよね.

ドミニク:仮想空間内に(ゲームの)ゴーストがうじゃうじゃいて,盛り上がる……のは,どうでしょうか? つまり,リアルでログインできるのは100人が限界だとしても,がんばってハイスペックマシンをICC側で調達して,クライアント側でゴーストが1万人ぐらいいてウロウロしているようにする,とか(笑).ゴーストが面白いのって,「ゴーストと戦って未来を作ることができる」というか……後ろを振り向いているわけではなくて,なんとかしてゴーストを倒そう,ということ.
 ちなみにFacebookで僕がちょっとハマったゲームで「Ghost Racer」(http://www.facebook.com/apps/application.php?id=9009386453)というタイトルがあります.2Dのしょぼいレースゲームなんだけど,ある日,友だちから「オレのゴーストと戦え!」って挑戦状が叩きつけられてくる.すると,例えばその友だちが昨日走ったログと擬似同期的に対戦できるわけです.いっしょに遊ぶ時間がないから擬似同期でやる……みたいな.でも結果はちゃんと残っているから盛り上がれる.先ほどの暦本さんのPlaceEngineプロジェクトでも,ログから「今,これからどうなるのか」みたいなものがフィードバックされていくところにグッとくるんですよね.

赤岩:過去が先の世界,未来につながっているわけだよね.

[※15]暦本純一さんが……「存在確率分布マップ」がある:参考⇒「Next Reality:PlaceEngine, LifeVectorと行動パターンの視覚化」(http://d.hatena.ne.jp/rkmt/20070420/1177058746) [ドミニク] [※16]あるオンラインゲーム(EverQuest II)の4年間の全ユーザーのプレイ記録が,アメリカの科学振興協会に研究材料として提供された,という話:参考⇒http://www.4gamer.net/games/004/G000449/20090217006/ [エキソニモ] [※17]「TypeTrace」:タイピングを介して思考の痕跡を記録・再生するシステム.詳しくは,公式サイト⇒http://typetrace.jp/ [※18]彼は「WorldTrace」というのをやってみたいと言っていました:ドミニク・チェン特集企画による『SITE ZERO/ZERO SITE』No.2情報生態論特集号に所収の中嶋謙互の論考「生きているデータベースとWorldTrace」参照.http://site-zero.net/contents/vol2/ [ドミニク] [※19]《断末魔ウス》:
http://exonemo.com/DanmatsuMouse/indexJ.html