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「エマージェンシーズ!」は,これから期待されるアーティストやクリエイターの最新の作品やプロジェクトをいち早く展示するコーナーです.年間3,4回のペースで,アートや科学の新しい可能性を開いていく実験的な表現を幅広く紹介していきます.メディア・アートにおいて現在生まれつつあるものをリアルタイムで体験いただくとともに,それらを生み出すアーティストたちの発想の源泉に触れていただく場となることを期待しています.
001《KODAMA》
展示期間:6/6—9/9 [終了]
002 《VP3L》
展示期間:9/15−11/26 [終了]
003 《moids》
展示期間:12/15−3/11 [終了]


エマージェンシーズ! 003
《moids》
2006
斉田一樹+三原聡一郎+むぎばやしひろこ
展示期間:2006年12月15日(金)−2007年3月11日(日)[終了しました.]

moids(モイズ)は,一定のルールによって自立的に音を奏でる48個の電子音響デバイスの集合によって構成される.マイクとスピーカが内蔵されたデバイスは,鑑賞者の発する音や環境全体の影響を受けて自律分散協調的にダイナミックな音響環境を生成する.それはまるで鈴虫やカエルの合唱のように,個々は自立していながらも集合として調和のとれた合奏のように聞こえる.moidsは,環境の偶然的な変化によって,瞬時に創発されていく非決定的モデルともいえる.
斉田一樹,三原聡一郎,むぎばやしひろこ
故Moog博士の講演を聴き,2004年よりコラボレーション開始.有機的かつ非中心的なアプローチにより,電子/電気的な音響生成の新しい表現をアートのフィールドで模索している.木下研究所所属.活動の傍ら普段は楽器開発業,舞台業に携わり,社長業を営む.


エマージェンシーズ! 002
《VP3L》
2006
比嘉了
展示期間:2006年9月15日(金)−11月26日(日)[終了しました.]

《VP3L》は,空間の概念をベースにした,リアルタイム音響プログラミング言語です.コンピュータでシミュレートした3次元空間内に配置されたオブジェクトをプログラムの基本要素として,その位置や組み合わせ方によってさまざまな音響を生成することができます. さらにプログラミング上の空間と実際の音響空間を結びつけることで,プログラミング空間が音響空間そのものとなり,プログラム空間=音響空間を自由に移動したり操作することができます.今回の展示にあたって制作されたインスタレーション版《VP3L》では,事前に用意されたさまざまな音のプログラムサンプルをベースに,簡単なインターフェイスによって,プログラミング空間内を移動したり,オブジェクトの配置を変更したりすることで,体験者が自在に音を変化させていくことができます.
http://www.lalalila.org/
比嘉了は,オリジナルなプログラムやデバイスを用いたサウンド・パフォーマンス,ソフトウエア・アートの制作研究を行なう.2006年6月にパリで開催されたNIME(New Interfaces for Musical Expression)では,今回展示している《VP3L》を用いたライヴ・パフォーマンスを行なった. 1983年生まれ.多摩美術大学大学院デザイン専攻大学院1年.サウンド&メディア・アート研究室所属.

協力:多摩美術大学情報デザイン学科情報アートコース



エマージェンシーズ! 001
《KODAMA》
2005
山川 K. 尚子
展示期間:6月6日(火)—9月9日(土)[終了しました.]
森の中に人の目に見えない「木霊(こだま)」が住んでいて,訪れる者の話し声をこっそり聞いています.人の気配がなくなると木霊たちは,空気ごととらえた人々の声を使って遊び始めます.次に訪れた人は,誰もいないはずの森にざわざわと声がこだま(反響)するのを聞きますが,近づくと声はぴたりと止み森はふだんの静けさをとりもどします.人の声をマイクでとりこみ,コンピュータで映像と音をプロセスすることでこだまがあらわれ,センサーが次に訪れた人を感知すると消えてしまうシステムです.
森は,20世紀初頭頃まで人間にとって長く未知の場所であり,精霊や魔物の住みかとして世界各地に多くの民間伝承を生み出してきました.こだまは,発された人の声を真似ながら別の音へと変換する自然の反響システムであると同時に,人の行為を反映するいたずら心にあふれた精霊のような存在として人々に親しまれてきました.この作品では,こだまをセンサーやコンピュータなどの技術を使って,訪れた人々を巻き込むインタラクティヴなシステムとすることで,森と人との関係を遊びに満ちた不思議な世界として浮上させています. アーティストはこれまで,人間が発する言葉そして発話の際の声という現象に興味を抱いてきました.目に見えず発されると同時に消えてしまう言葉,そのはかなさを物質として表現する作品の制作を経て,《KODAMA》では人が残した声および息が森に残り,透明な空気の塊として浮遊していく世界が実現されました.
山川 K. 尚子は,1977年岐阜県生まれ.2002年京都市立芸術大学卒業,2005年IAMAS(岐阜県立情報科学大学院大学)大学院研究生卒業.現在オーストリア,リンツ工科造形芸術大学のクリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノー教授の下で滞在研究員を務める.《KODAMA》はこれまでシンガポール,ドイツ,アメリカ他で展示されている.

プログラム協力:竹谷 康彦
撮影協力:萩原健一
協力:三原聡一郎,鈴木悦久
機材協力:IAMAS