ICC




《境界線》
"Boundary Functions"
1998
スコット=ソーナ・スニッブ
この作品では,他の人との間にふだんは見えないはずの境界が線として現れ,自分の領域が示されます.それぞれの位置に応じて境界線は変化しますが,その中心にいる人がつねに境界線にもっとも近くなるように決められています.
この線を発生させるプログラムは,例えば人類学や地理学で観察される民族や生物の勢力分布,化学では原子が結晶構造を形成する仕組み,天文学でも重力による星や星団への影響など,自然界に見られる様々な現象を数理的な法則によって分析するときに使われる「ボロノイ図」や「ディリクレ境界条件」を参照しています. 鑑賞者を取り囲む境界線は,単独で成立せず,個人と社会との間で生じる葛藤のように揺らぎます.タイトルは,有能な数学者でありながら25年間森の中にこもり爆弾を各地に送りつけた「ユナボマー」と呼ばれたセオドア・カジンスキーが,1967年にミシガン大学に提出した論文からとられています.
スコット=ソーナ・スニッブは,人の動きや身振りに反応する表現を中心とした作品を制作している.作品に関心を持たない人,あるいは見知らぬ他人の間でも,能動的な働きかけをしたくなるインタラクティヴな体験をつくりだす.ブラウン大学でコンピュータ・サイエンスを修め,ロードアイランド造形大学で実験的アニメーションを学び,映像作品も国際的に評価されている.また,大学で教えるほか,アドビシステムズ社にもコンピュータ・サイエンティストとして勤め,現在はサンフランシスコに在住.
インタラクティヴ
作品が作者の手を離れ,鑑賞者によって違ったものとして捉えられる側面は,とくに計算速度の早いコンピュータ,人間の身振りや環境の変化を感知するセンサーの発達によって,1990年以降大きな関心を集める動向になりました.作品は,観客の積極的な参加によってはじめて成立し,操作や動きに反応しながら時間とともに変化し続け,一定の状態に留まらないのが特徴です.