ICC




《A-Volve》
1994
クリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノー
これは,自由に形を描いて作り出した人工生物を棲息させるための水槽です.人工生物は現実と仮想の環境に適応しながら,互いに影響を及ぼし合い,その形が環境に相応しいと長く生き続けます.また,生物どうしは,子供を産むこともあれば,強いものが弱いものを食べてしまうこともあります.また,水槽に手をいれることでいっぽうを守ったり,違う動きをするように誘導することもできます.
自然環境は,観察の対象として眺められるだけではなく,観察者自身からも影響を与えられ,変化をしていくものです.これは仮想の環境において,その相互作用をシミュレーションしている作品です.形をうまくデザインすると,動きが機敏でかつ筋肉の強い生物になり,さらに水圧や他の生物の動きとの関係によって適応性が試されます.固有の形を決定している「遺伝子」情報は,出産をするときに二匹以上の生物との間で交換され,子に引き継がれます. 作者は,こうした人工生命(Artificial Life)を使った視覚表現の試みを,クルト・シュヴィッタース,ロバート・ラウシェンバーグ,フルクサスらに代表されるような20世紀の芸術における「プロセス」を重視する傾向の延長に位置づけています. この作品は1994年にICCとATR人間情報通信研究所の客員研究員トマス・レイ博士の協力によって制作されました.
クリスタ・ソムラーは植物学と美術,ロラン・ミニョノーはメディアとヴィデオをそれぞれ専攻し,1992年から共同で作品を制作している.「生命システムとしてのアート(Art as Living System)」を掲げ,コンピュータを使ったインタラウティヴ作品の第一人者として活躍している.1994年から2004年には,京都にある国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の研究者として,また岐阜にある情報科学芸術大学院大学(IAMAS)の助教授として日本に在住した.現在は,オーストリアにあるリンツ工科造形芸術大学のメディア学部において教鞭をとっている.
人工生命
私たち生物以外で,機械やコンピュータなどによって,相互に依存し合いながらも自ら学習し自己再生を繰り返すことができる生命のようなシステムを持つもの.このシミュレーションを試みることで,生命の本質を探ろうとする研究が近年進んでいます.現代の芸術も,生命のように無限の可能性をはらむ不確定性へ眼を向けた「プロセス」が重視されています.
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