ICC





はじめに
入場料
コラボレーション作品




《ドレッシング・テーブル(レプリカ)》
《ドライ・セル》
《銀の雲》
《リヴォルヴァー(color)》
《リヴォルヴァー (black/white)》
《至点》
《フロート》
《オパール・ループ/雲》
記録ヴィデオ上映
参加作家
関連イヴェント




シンポジウム「E.A.T.が残したもの」
コンサート「デイヴィッド・テュードア《レインフォレストIV》」

2003年4月11日(金)—6月29日(日)ギャラリーA,B,5Fロビー





コラボレーション作品


《至点》
"Solstice"

1968年 国立国際美術館蔵
ロバート・ラウシェンバーグ


Photo courtesy: The National Museum of Art, Osaka

写真:高山幸三


 「ドクメンタII」(西ドイツ[当時] ,カッセル)のための新作として制作された《至点》は,その直前に完成した《サウンディングズ》と同様,エンジニアの協力を得て制作された.作品は,床(台座)と天井から照明を当てられながら開閉する5組の自動ドアで構成されている.ドアには,シルクスクリーンで刷られたアクリル・パネルがはめ込まれている.観客は自動ドアを通り抜け,内側からイメージの多様な組み合わせに囲まれることになる.開閉するパネルは,観客がイメージを眺め,歩き,また立ち止まる瞬間ごとに多数の視点を可能にさせている.上下からの照明によって,内部空間はいわば外界から隔絶した「光の部屋」と化し,光と彩色された形象に囲まれた曖昧な世界が立ち現われる.5層のパネルには,それぞれ同位置に,同形象モチーフ(眼鏡やラジオや地平線など)が異なる色(赤,青,黄など)で刷られている.観客は,通過するにつれ,異なる色彩の同一イメージを反復的に知覚していく.
 《リヴォルヴァー》のイメージが,正面方向からの重層として現われるのに対して,《至点》では,観客が通り抜けつつ,自分の網膜上でイメージを重ねていく.また,イメージの操作性について,《サウンディングズ》では,《リヴォルヴァー》の円盤のコントローラーのように単独の観客の意図的な操作を求める方法は採用されなかった.《サウンディングズ》では,観客が暗い壁の前で物音を立てるとセンサーが感知し,3層のアクリル板でできた作品の内部照明が点灯する.その瞬間,はじめて作品のイメージ(さまざまな角度から見られた椅子)と奥の鏡に写った観客自身の姿が重なって現われる.そこでは,偶発的でインタラクティヴな観客たちのパフォーマンスが作品の全体的なイメージに直接関与していた.しかし,ラウシェンバーグは,《至点》に関して,観客にパフォーマンスを求める(それは時に観客を当惑させる)のではなく,イメージの現われてくる様を見せることに重点をおいたという.しかし,観客の意図的な行為性の重心は異なるにせよ,《至点》においても,観客の身体の動き,つまり,没入していく観客の姿を組み込みながら作品は立ち現われている.作品の全体的なイメージは,観客が時間をおいてもう一度体験すれば,さらに幻惑的に増幅するだろう.また複数の観客が参入する場合には,一方の観客の関与と別の位置にいる観客の関与にイメージは影響される.このような偶発性は,観客自身の動きをそのまま,虚像と実像の幻想的なスペクタクルへと変換した大阪万博ペプシ館内部全体を覆った球面鏡の効果を思わせる.そこでは関係する観客すべての鏡面像の同時的関与によってはじめて開かれる全体環境が志向されていたのだった.ラウシェンバーグのコンセプト「見えない環境」は,個々人に制約される操作性を超えた,開かれた相互作用空間の可能性を孕んでいた. [上神田敬]