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参加作家
カタログ
 
1997年4月19日 〜 7月13日 [終了しました.] ギャラリーA





古谷誠章氏の「連歌」 3月14日付け


海市 letter 03
19970314

古谷誠章 / 丸山洋志さんから

「島」→「堤防・船・壷(洗面器)」→「迷路と仮枠」→?

01 ミジンコの開放系血管のようなもの,つまり半透膜による境界内を自由に循環し,心臓から送り出されて,また心臓に戻る体液.しかもその体液も自前ではなく,もともと膜の外から摂取され,またいずれ体外に排出されてしまう.
どこまでが「彼」か.

02 イソザキさんは運河の出口を肛門と呼んだけど,ヴェネツィアの水はすべてカナル・グランデから出入りするわけでもない.つまりそういう仕組みではないと思う.
何かに滲み込んでいる.滲み込まれるもの,それが「迷路」か.

03 迷路と水の粘度,この抵抗こそが,海から島を切り取って,島を島としている.迷路と水は互いに反転された関係にあり,境界面はちょうど仮枠のように同じ形をしている.
迷路と水を「粘度」の面から考える.絞っても絞っても絞りきれない布,拭っても拭っても消えないシミ.例えば脂肪肝の状態.

04 粘度の問題は多分,「時間」の問題とも深く関係する.さらっと抜け出るか,じわじわと出ていくか.あるいはただ忘れて,気にならなくなっただけか.迷路も水もどんどん入れ替わり,おり重なっていく.
「迷路が日々変わる」を第3句のテーゼとする.同様に粘度も日々変化し,通過速度も変わり,散らかったり片付けられたりしている.昨日通り抜けたところ(道とは呼べない.ただ邪魔モノ=抵抗がなかっただけだから)が,今日も通れるとは限らない.

05 島がオートポイエティックに組織生成することを喜びたい.だから蚤民の船が群をなすだけでも島であり,防波堤がただ外圧のためだけ,あるいは組織の境界としてだけあるのだとしても,当然自由に拡大したり縮小できたりする方がいい.丸山さんの迷路という複雑化はその相を飛躍的に増大させた.
つまり伸縮変幻自在な「半透膜」.しかも消化器官でもある運河にも,それは同じように連続しているはずで,膜の内外の濃度差が浸透圧を発生させ,内外の電位差の逆転が情報を伝達するシグナルとなる.もちろん迷路の縁もまた同じ.僕は防波堤と運河の岸と迷路の縁と,そしてまた蚤民の船の舷側をすべて半透膜に置き換える.

06 膜はもとより何かを通し,何かを通さない,一種のフィルターである.この選択的透過性が身体の境界を不分明にしている.宇宙服ならその中と外ははっきりしているが,生身の人間でははっきりしない.岡崎さんの「異なる速度で移動する空間間は,互いに隔離されている.」は宇宙船のレベルではかなり正確であるが,蚤民の船ではだいぶ怪しく,ミジンコのレベルでは完全に怪しい.(たびたびこれを思い出してしまうのは多分この間,坂田明の妙な演奏を聴きに行ったからだ.白状すれば)
強力な磁石はあなたの手のひらを通り越して鉄の玉を吸い付けますよ.

07 明滅する迷路の変化,安定しない粘度の偏り,散らばっていきそうなのになかなか離れていかない吹き溜りのゴミくず.迷路上に表れたアトラクター.
だからこの文章を読んだ人は,水の滲み込んだ迷路の中に粘度のムラをつくる操作をして下さい.まだらのムラです.しかも毎日それが変わるようにです.