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ICC コレクション

《テレイン2》 [1997] “Terrain_02: Solar Robot Environment for Two Users”

ウルリーケ・ガブリエル

《テレイン2》

作品解説

円形のテーブルの上に棲息するソーラーロボットたち.テーブルを挟んで対面する二人のユーザーの頭に取り付けられた,脳波感知システム.測定,分析,そして相互関係を比較された脳波データが光の量やパターンをコントロールし,ロボットのスピード,行動とその範囲を決定する.思考や意識の沈静化がその動きを活発化させる.

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作家の言葉

二人のユーザーが対面して腰かけており,言葉をかわすことはない.お互いの間には円形のテーブルがある.このシステムはユーザーのインタラクションを反映するものなのである.

ガラスのテーブルは,ソーラー・ロボットたちが生息する「場(テレイン)」である.ロボットは光によって制御されており,上下からの光を感知するように設計されている.ガラスの上で,ロボットは光を待ち受けているのだ.

二人のユーザーは,頭にかぶった脳波感知システムによるインターフェイスで接続されている.彼らの脳波はたえず測定,分析,比較される.脳波の相互関係はコンピュータにより解釈され,ロボットたちの環境条件を決定するのに使われる.その結果は,上方および下方からガラスに向けて放射されるランプの光量の変化として現われる.光量がロボットのスピード,身振り,さらには活動する「場」の範囲をコントロールするのである.

二人のユーザーのコンビとお互いの反応の違いによって,上から下へ,そして下から上へと放射する光のパターンが変化し「場」に影響を与える.住民であるロボットは動きはじめ,変化する「場」のパターンに応じた意味のある行動を行なう.

このパターンは,潜在意識を含む二人のユーザーのシナジーに対する解釈なのである.二人のユーザーの脳波パターンが近ければ近いほどロボットの動きも同一化し,ロボットは「場」全体においてスムーズな動きを見せるのである.

ロボットの環境

円形のガラスは,下からは薄い特殊なランプ(EL-シート)によって,上からはハロゲン・ライトによって照らされる.上方にある照明グループは,床の照明グループと相互関係をもっており,焦点となる「場」における諸運動を生む.ランプは円形の「場」の上に,明るさを変えられる,セクションによるパターンを投影する.二人のユーザーの脳波の相互関係に対応して,上下の照明は独立してコントロールされる.

上方および下方からの照明はロボットの太陽電池に移動,感知,身振りに必要な動力を供給している.太陽電池にあたる光量が多くなるほど,ロボットの動きは速くなる.

ロボットは前方に五つのセンサーを持ち,後方と底面にはセンサーがそれぞれ一つずつある.前方のセンサーと後方のセンサーは,光トランジスターであり,自分たちの周囲の床面に直接向けられている.これらの「ロボット・アイズ」は,その周囲の上下両方からの光量を感知する.光の明暗のコントラストは,重要な環境要素としてロボットに作用する.ロボット自身の影や「場」の縁の部分のような暗い部分は「回避すべきもの」とみなされ,ロボットの方向決定の原因となるのである.

また,光の強度に応じて,下方のEL-シートが電磁波を発生し変化をもたらす.ロボットの底面センサーにあるピックアップ・コイルが電磁波を測定する.

ロボットが別の強さの電磁波をもつEL-シートのある場所に移動すると,底面センサーは新しい電磁波を探知し,新しい行動状態へと移行するのである.

無制御:ロボットは直進する
回転:ロボットはその位置に留まって回転する
パニック:ロボットは前後に行きつ戻りつする
回避:直前にある物体につかえて動けなくなるまで,ロボットは物体を回避し続ける
全行動:回転,回避,パニックが同時に機能し,ロボットはたえずなめらかに動いていく

(ウルリーケ・ガブリエル)

作家紹介

ウルリーケ・ガブリエルは,呼吸運動や視線の動きなど,人間の身体を直接的なインターフェイスとする,インタラクティヴな作品を展開している.たとえば近年の《Terrain》シリーズは,脳波によって複数のロボットをコントロールするものである.

一見するときわめて複雑な行動をみせるこの彼女のロボットたちは,じつは光のコントラストという単純な外界からの刺激のみによって,その行動パターンが決定されている.まさにわれわれのロボットの原初的なイメージに近い.

さまざまなテクノロジーの急速な発展をみている現在,この「ロボット」という言葉には,もはや一抹のノスタルジーすら感じるのも事実である.かつてカレル・チャペックによって100年近く前に命名されたそれは,人間と対極にある存在,つまり生命なき機械を象徴するものであった.それは見かけ上,人間に近い姿で登場したことによって,かえってその本質的な差異をつねに意識させることができた.

しかし,現代のテクノロジーによってもたらされた昨今の「人工生命」や「人工知能」といったイメージには,そうした「機械」的な違和感はあまり感じられない.というよりむしろ,ロボットのようなたとえば人間に近い実体的なイメージは,そこでは執拗に隠されているといってもよい.それは,われわれが人工生命や人工知能について,いわばSFの世界にみられるようなある種の素朴な「誤解」を発生させることを,つねに回避するための配慮かもしれない.「ロボットが人間になる」あるいは「人間がロボットになる」というような…….

ガブリエルのロボットたちによる作品は,われわれのその素朴な誤解の「素朴」さを問うための《Terrain(場)》を提供する.ロボットたちの複雑な動きを生む光の変化は,作品への参加者(観客)の脳波によって生み出される.しかし,これは観客の思考=意志を反映するものではなく,思考を停止しきわめてリラックスした状態で発生する脳波,アルファー波の量に比例するのである.

つまりここでは,思考といういわば最も人間的な行為は,ロボットの活動を疎外するものとなる.ロボットをコントロールしようという意志は,ロボットの動きを止めてしまったり,パニックを引き起こす.作品への参加者は,「何も考えない」こと,つまり自らがロボットのようになることによって,初めて逆にロボットに動き=生命を与えられるのだ.

このある意味でのコントロールされるものとするものとの逆転は,その結果導かれる複雑なロボットの行動と,椅子に腰掛け目を閉じて瞑想する人間(参加者)の姿によって,対比的に視覚化される.が,そこにチャペックの戯曲的なロボットと人間の悲劇的な関係をみることの素朴さを,まさに彼女は問うのである.つまり,そうした素朴さを生み出す,近代的なテクノロジーと人間との関係,支配するものと支配されるもの,という二元論的な関係性=断絶こそを問う,新たな関係性を探る場=Terrainを彼女は生み出そうとしていると言えよう.

(後々田寿徳)

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