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マンメイド・ムーン [2012] Manmade Moon

多摩美術大学×東京大学 ARTSAT:衛星芸術プロジェクト

マンメイド・ムーン

作品解説

高度-Elevation

制作|平川紀道

芸術衛星「INVADER」は,高度407kmのほぼ円軌道を,毎秒7.6627km,時速に換算すると毎時2万7593kmという驚くべき速度で,92分42秒の周期で地球を一周する予定です.国際宇宙ステーション(ISS)も周回するこの高度は,高度と共に気温が高くなる「熱圏」と呼ばれる大気の層にあたり,重力は地表の10万分の1程度,気温は約1000度にも達します.しかしこの高度では,大気の密度は大変に小さく,気圧は地表の約100億分の1しかありません.だから気温が高くとも,それを熱としては体感することはなく,宇宙飛行士が宇宙遊泳できるのです.
第1のターミナル「高度」では,日常のスケールから,INVADERが周回する407kmという高度まで,さまざまなサイズのオブジェクトがスクロールしながらシームレスに表示されていきます.わずか10cm角のキューブサットから人間,クジラ,スペースシャトル,ISS,コンコルド,ピラミッド,エッフェル塔,ブルジュドバイ,LHC(大型加速器),さらには富士山,エベレスト,飛行機や,ISS/キューブサットの高度まで,方向によって人間のスケール感がいかに異なるかを感じてください.東京と大阪の直線距離がちょうど400km.東京から大阪までとほぼ等しいわずかな距離を垂直に移動するだけで,そこには私たちの日常とは,まったくかけ離れた世界が拡がっています.

環境-Environment

制作|大西義人
データ提供|東京大学中須賀研 PRISMチーム


宇宙は,材料が揮発してガスが発生・付着したり,材料間の凝着が起こるほどの「高真空」や,浮遊物がショートをおこしたり,可動を妨げる「微小重力」,電子機器に動作不良や損傷を与える「高放射線」,さらには「宇宙塵」や「宇宙ゴミ(デブリ)」の存在まで,地上では想像しがたい過酷な環境です.熱の問題ひとつをとっても,6000度の太陽と絶対零度に近い宇宙空間の狭間で,日照側では100度以上,日陰側ではマイナス数十度という大きな温度差があるうえ,真空かつ微小重力のため空冷や対流による温度差の緩和が期待できません.そうした環境の中,コンピュータを正常に動作させ,高温・低温に弱い充電式バッテリーを守るためには,精密な解析やシミュレーションと適切な設計が必要不可欠です.
第2のターミナル「環境」は,軌道上における衛星の温度や姿勢,衛星をとりまく地磁気といった環境を,時間軸に沿ったかたちで,直感的に可視化するターミナルです.たとえ開発者本人であったとしても,衛星の軌道上に実際に行くことはできません.衛星は,一度打ち上げると,二度と手に取って見ることができません.そんな衛星がおかれる環境をよりリアルに「感じる」ことは,本プロジェクトの1つのテーマです.そこでこのターミナルの表示には,現在運用中の東京大学の超小型衛星PRISMから送られてきた,実際のセンサーデータを用いています.

位置-Location

制作|市川創太
技術提供|doubleNegatives Architecture
データ提供|東京大学中須賀研 PRISMチーム


INVADERは,軌道傾斜角65degの傾斜軌道で,緯度0度から±65度までの緯度の上空を飛行します.また,ある地点を衛星が毎日異なる時刻に通過する太陽非同期軌道なので,常に太陽の光を受け続ける全日照の時期と,日照と日陰がちょうど半々になる時期の両方が現れ,熱や電源設計が非常に難しくなります.
第3のターミナル「位置」は,ある一日の人工衛星の地球に対する進行方向と位置を基準としたメルカトル図法で,地球表面と人工衛星(PRISM)/地上局の位置,地上局と通信可能な衛星の可視範囲を表記したものです.地球の自転によって,人工衛星の軌道と地表の関係が徐々にずれていく様子を見ることができます.東京大学本郷キャンパスにある地上局と人工衛星が通信可能になるのは1日に4回です.衛星を基準とした地図を見ながら,電波を介した衛星の運用の様子を音で聞くことで,肉眼では見ることのできない,人工衛星が近づいてきて可視範囲に入り,通信した後,遠ざかっていく様子を視聴覚的に感じることができます.
現在「ARTSAT:衛星芸術プロジェクト」のために,多摩美術大学に新たな地上局を設置中です.しかし単独の地上局が衛星と交信できるのは,1日の合計でも25分程度です.その間に1200bpsの通信速度で,INVADERと地上局の間でやりとりできるデータの総量は,1日あたりわずか11キロバイト弱しかありません.

アーティスト

展示情報

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