城一裕の作品「断片化された音楽」は,円弧上に切り出されたレコードのパーツ(断片)をターンテーブル上で組み替えることで,様々なリズムを作り出す.予め吹き込まれた音響を再生するのではなく,ターンテーブルの上で音響を都度生み出す.
一方本作品では,コンピュータ上で描いた波形の形で切り抜かれた二つのレコード(L盤とR盤)を組み合わせて空間性を持った音響を作り出す.L盤とR盤,それぞれの断面の組み合わせで生まれる波形をステレオフォニック再生することで立体感が生じ,独自の空間性を持った音が発せられる.LとRの盤の組み合わせ,表と裏,両者の角度が音空間に影響する.
「断片化された音楽」同様,聴衆者は同時に演奏者でもある.既存の音楽をサンプリングするためではない,楽器としてのターンテーブルの別種の可能性を示唆している.