カメラがひとつの視点から部屋を一望しています.その部屋の中では,男が一人,壁に色を塗っています.すると,カメラは下方に垂直移動し,床を通りぬけて下の階へと移動していきます.ビルディングの中のように,下の階からまた下の階へ,カメラは各部屋で行なわれている出来事や,部屋の状態を,それぞれの階を通過する時間だけ垣間見ていくのです.
そのものさびしい部屋では一人の男が,たくさんの紙飛行機を折って飛ばす,ゴム風船をふくらませる,部屋の中で自転車に乗るなど,退屈そうに無為の行為の数々を行なっています.また,訪れるたびに配置の変わる椅子,毎回変わるポスターに描かれた擬態語,天井までぴったり積み上げられた同じ大きさの段ボール箱などが映し出されます.
その想像上の部屋は10色に色分けされていて,それぞれの部屋で別々の出来事が起こっています.10の部屋をカメラが順番に通過し,それが10回繰り返されます.観客は,カメラが部屋を100回(10階を10回分,というのがこのタイトルの由来です)通過する間に,10の部屋それぞれの中で起こる一連の出来事の目撃者となります.それは,映像を見ること,撮影すること,そうした行為が本質的にのぞき視ることであることを思わせるものでもあるでしょう.