ICC
OS2013
展示作品
《心音移入》
2010年
安藤英由樹+渡邊淳司+佐藤雅彦


撮影:木奥恵三

鑑賞者が聴診器を自分の胸に当てると,映像の再生が始まります.そこには,さまざまな状況下で緊張状態にある人々が映っています.自分の鼓動音を聞きながら映像を見ていくうちに,その鼓動が,映像に登場する人物のものであるかのように感じられてきます.

内臓などの身体器官は,その人と切り離すことができない固有のものとして認識されています.なかでも心臓は,生命維持に最も重要な役割を果たす器官です.また,「心臓」を表わす単語が「心情」や「性格」といった意味ももつことがさまざまな言語でみられるように,心臓は,生物としての人間に不可欠というだけでなく,その精神活動の象徴としてもとらえられてきたといえるでしょう.

とはいえ私たちは,自分の心臓を見たり触ったりすることができません.心臓に対して私たちがもっているイメージは,緊張または集中しているとき,あるいは自ら脈拍を測ったり聴診器を使ったりするときに感じる鼓動音を通じて,間接的に形成されたものなのです.

この作品では,心臓の鼓動のような個人固有のもののなかにも,他人のものとして認識されうる,あいまいな性質があることが示されています.しかし,そういうあいまいさがあるからこそ,私たちは,他者に共感したり,同調したりすることができるのかもしれません.

この作品は,21_21 DESIGN SIGHT 企画展 佐藤雅彦ディレクション「"これも自分と認めざるをえない"展」のために制作されました.
映像協力:文京区立関口台町小学校,東京外国語大学剣道部,近藤大祐

安藤英由樹 プロフィール
1974年生まれ.「ヒトの錯覚現象を利用したヒューマン・インターフェイス」「ヴァーチュアル・リアリティ」「感覚−知覚−運動インターフェイス」「生体工学」などの研究に従事.これらのインターフェイス開発の研究に加え,芸術表現としての先端的科学技術の社会貢献にも関心を寄せ,自らも作品制作を行なう.平成20年度(第12回)文化庁メディア芸術祭アート部門で優秀賞受賞(渡邊らと),2009年,2011年(本作品にて)アルス・エレクトロニカ インタラクティヴ・アート部門でHonorary Mention受賞.
大阪大学大学院情報科学研究科准教授.

渡邊淳司 プロフィール
1976年生まれ.「視覚,触覚の基礎研究及びそれらを表すオノマトペの研究」「人間の知覚特性を利用した情報提示装置の開発」などを主な研究分野とし,そのインターフェイス技術への応用と展示を行うなかで,人間の感覚と環境との関係性を理論と応用の両面から研究している.文化庁メディア芸術祭,日本科学未来館や東京都現代美術館,アルス・エレクトロニカ・センターなどでの展示も行なう.
NTTコミュニケーション科学基礎研究所研究員.
過去に参加した展示・イヴェント

佐藤雅彦 プロフィール
1954年生まれ.脳科学の知見に基づく表現の研究や科学実験を通して,自身の研究室の卒業生で構成されるクリエイティヴ・グループ「ユーフラテス」とともに映像や表現,教育,研究発表など,枠にとらわれない独自の活動を展開.広告やテレビ番組,ゲームなども多数手がけ,シンプルなアイデアから生みだされる誰にでもわかりやすく伝わりやすい作品は国内外で高く評価されている.
東京藝術大学大学院映像研究科教授.
過去に参加した展示・イヴェント