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ICCキッズ・プログラム 2010 いったい何がきこえているんだろう

はじめに

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]では,ICCキッズ・プログラム2010「いったい何がきこえているんだろう」を開催いたします.この展覧会では,ふだんわたしたちの生活の中で,なにげなく接している「音」に注目します.
人間が外部から受け取る情報の約80%は,視覚からの情報だといわれています.しかし,耳から得る情報も,いろいろな感覚と密接に結びついて,わたしたちが環境を把握するうえで重要な役割を果たしています.わたしたちの耳はなにをきき,いったいどのような情報を受け取っているのでしょうか.「きく」ことは「みる」ことと,どのように違うのでしょうか.

ICCキッズ・プログラム2010では,いつもはあまり意識することのない「音」をテーマに,音と知覚の連動,音と空間や環境の関係性,ききとり方の変化など,各テーマに合わせたアート作品やデバイスなどを展示します.遊ぶように音を体験,思考しながら,聴覚と知覚に関する新しい発見の扉が開かれることでしょう.
包括的な現代の情報社会のリテラシーの向上を図るとともに,さらにサウンド・アート,音響装置,音楽生成プログラムに関心の高い研究者や教育者,学生の方々などにも幅広く対応したプログラムです.

いったい何が聞こえているんだろう 城一裕(本展監修者)

「聴くこと」について,生態音響学者のガーヴァーは「われわれの周りで起こっているものごとを聴くということ,たとえばそれは避けるべきだとか,行為の可能性を知らせてくれているとか,そういった聞こえにわれわれは関心を寄せる.それに関係する知覚的な次元や属性は,音を生じる事象とその環境の次元や属性に対応しているのであって,音自体の次元や属性に対応しているのではない」*と述べています.
このように日常生活では,聴くということが,音そのものというよりは,むしろわれわれの周りで起こっている事象を把握するために用いられています.
「いったい何がきこえているんだろう」と題した本プログラムでは,「音楽」ではなく「言語」でもない,「音」に着目し,それらの音を利用して,ふだんは見えない現実のある側面を聴かせる,あるいは,ありえるかもしれない別な世界を想起させることを試みています.ここには,直接的に耳で知覚するだけで はなく,視覚や触覚といった他の感覚を音を介して把握する,もしくはそれら他の感覚を通じて音への意識を向ける,そのような作品や装置が集められています.
生物学者のユクスキュルが,「同じ環境でもその捉え方によってそのありかたは大きく異なる」と述べているように,見たり,触れたりするのではなく,聴くことで気づく世界のあり方があるのではないでしょうか.情報機器との関わり合いが視覚から解き放たれつつある現在,日々の生活の中で経験的に獲得される音の聴き方にわずかな差異をあたえる本展示を通じ,未来を担う子供たちが,「音楽」ではなく「言語」でもない,「音」の可能性を探る,そういったきっかけの一つを得てもらえれば,と考えています.

*W・W・ガーヴァー (黄倉政広・筧一彦訳)「いったい何が聞こえているんだろう?」
『アフォーダンスの構想』佐々木正人・三嶋博之編訳  P.127-166 (東京大学出版会,2001)

空間デザイン

多層な布でできた洞窟のような非日常空間でいろいろな音の体験をお楽しみいただけます.
空間デザイン:土井伸朗(スープ・デザイン)
素材協力:オーミケンシ株式会社