ICC

展示作品

《10番目の感傷(点・線・面)》
2010年
クワクボリョウタ

撮影:木奥恵三

暗い部屋の中を走る鉄道模型の先頭には,ちいさなLED照明が点灯しています.その車両は,模型の線路のルートに従い,大小さまざまな「もの」が配置された室内をゆっくりと移動し,それに伴って「もの」の影が室内の壁,天井に投影されます.その光源の動きから,静止している「もの」の影が映像として動きだし,車窓からの眺めのように移動し,あたかも観客が車両に乗っているかのように影に包囲されます.

この作品で投影される影は,改造された鉄道模型に搭載されたLED照明による光源から生み出されています.この光源は点光源と呼ばれ,光源から光が放射状に広がり,それによってできる影も放射状に投影されます.そのような環境では,「もの」と光源の位置関係が近ければ影は大きくなり,遠ければ小さくなります.この作品を形成している要素は,物質的には鉄道模型と線路のそばに置かれた「もの」だと言えますが,さらには光源としての点であり,その点の移動の軌跡としての線であり,「もの」の断面としての面だと言えます.また,線によって移動する点が,面としての影を動かしています.映像装置の起源とも言える幻灯機のような趣をもつこの作品では,光源があたかもカメラのレンズのようにまわりの「もの」を映し出しています.その映像は,どこかノスタルジックでもあり,私たちそれぞれが持つ記憶が呼び起こされるようでもあります.

クワクボリョウタ プロフィール

クワクボリョウタは,1971年生まれ.1998年から主にエレクトロニクスを用いて,アナログとデジタル,人間と機械,情報の送り手と受け手など,さまざまな境界線上で生じる関係性をテーマにした作品を発表.代表作に《ビットマン》(明和電機との共作),《PLX》,《シ'|フ'|ン》,《ニコダマ》などがある.純粋に体験を提供するための装置ではなく,道具として体験者を関係づけようとする指向性は「デバイス・アート」とも呼ばれる独自のスタイルを生み出した.
→過去に参加した展示・イヴェント