ICC
[Real Panopticon]

リアル・パノプティコン 江渡 浩一郎

[Real Panopticon Screen Image]
自らの行動が観測されていることを知ることにより、その後の行動についての 意識に影響が出ること.実際に観測されているかどうかよりも、観測されてい るかもしれないという意識が自らの中に生まれ,その結果,単純に何を見たい か,何をしたいかだけを考えて行動することができなくなり,どのような選択 をしているか,どのような行動をしているかを他人が見ているかもしれないと いうことが意識にのぼるようになることにより,他人を観測するという行為が, どのように行動するかについての自らの意識を変化させるということを意識さ せること.

多数の人がアクセスするサーバーを,大勢の人が集まる空間のようなものとし てとらえてみた.そこではお互いが相手の行動を見ることができる.ネットワー ク上のプライヴァシーもテーマとなる.このページでは,他の人が「on the Web」のサーバーにアクセスする様子を観察することができる.また自分も観 測される対象になっていることに気がつく.

いま「on the Web」にアクセスしている人たちがどの作品を見ているか,とい う情報をグラフィカルに表示する作品.また,どこからアクセスがなされたか, ということも知ることができた.他人はネットワークのミュージアムをどのよ うに動いているのか,あるいはどのページが人気があるか,といったアクセス の過程や状況を確認することができ,この作品を見ることによって,その後の 参加者の行動が,変化するということも起こった.リアルタイムに情報が更新 されるため,十分に楽しむためには,一定の時間作品を眺め続けることが必要 とされた.そのため,通常の利用ではわからないWWWの新しい側面が強調され ることとなった.

いま「on the Web」にアクセスしている人たちがどの作品を見ているか,とい う情報をグラフィカルに表示する作品.また,どこからアクセスがなされたか, ということも知ることができた.他人はネットワークのミュージアムをどのよ うに動いているのか,あるいはどのページが人気があるか,といったアクセス の過程や状況を確認することができ,この作品を見ることによって,その後の 参加者の行動が,変化するということも起こった.リアルタイムに情報が更新 されるため,十分に楽しむためには,一定の時間作品を眺め続けることが必要 とされた.そのため,通常の利用ではわからないWWWの新しい側面が強調され ることとなった.


イヴェントを終えて 江渡 浩一郎

[ETO Koichiro] あるサーバーにたくさんの人が殺到したとする.現実の空間に人が殺到した時 は,見ればすぐにわかる.しかしインターネット上のサーバーに人が殺到した という時は,そう簡単にはわからない.返答の速度が遅くなるといった情報で しかそれは伝わらない.僕は以前から,これを現実空間のように視覚化してみ たいと思っていた.それがこの作品の発端だ.

この作品では,他人が今どんなページを見ているかを,あたかもいろいろな人 が立ち読みしている本屋のように,見ることができる.しかしこの作品では, 空間というよりもむしろ一方的に他人の行動を監察する場となっている.その 様子が,監獄の一形式パノプティコンによく似ていると思いこういうタイトル にしたのだが,監獄とも違い,見られている側はやはり見られていることに気 がつきにくかった.そこは大きく違った.

僕はこの作品の前に,《PeepHole》という作品を作った.ネットワークにカメ ラが接続されていて,アクセスするとその時のカメラからの様子を覗けてしま う,というページだ.作る前はこの《PeepHole》とはできるだけ違った感じの 作品にしたいと考えていたのだが,後から見てみると,いろいろ共通した点が あるように思った.

見る側と見られる側とが対象ではないような空間.メディアを介することによ り,見る側と見られる側に不可避的に視線のずれが生じる.見られる側では, その視線のずれが,監視の視線として機能することになる.

ネットワークなどのコミュニケーション・システムを,空間として機能するも のとしてとらえる.そういったいわゆる「仮想空間」は,現実空間とは異なり, 間に何らかのメディアが介在するがゆえに,不可避的に視線のずれや認識のず れをはらんでしまう.そういった「ずれ」を強調して見せること.そこに興味 があるのかもしれない.

もうひとつ,これからインターネットで,プライヴァシーの問題が大きく出て くるんじゃないかと思う.インターネットを使って,サーバーにアクセスし, 情報を得る.これは雑誌やテレビから情報を得るのと同じようなものだと考え られることが多いが,実は大きな違いがある.インターネットの場合は,いつ どこの人がどんな順序でページにアクセスしたかが,サーバーに記録として残 る.インターネットを通じて情報を入手することは,同時にサーバーに情報を 残しているということでもあるのだ.

そういった記録は,たいていの場合,管理者にしか見えないようになっている. 利用者は,記録が残っていること自体知らないことが多い.現在は,これはほ とんど問題にはなっていないが,近い将来,これもプライヴァシーの問題のひ とつとして取り上げられるようになるのではないかと思う.

最後に,この作品を作るにあたって,様々な人の強力を得た.特にプログラマー の五十嵐久和氏には,忙しい中様々な助言をいただきました.感謝します.