一方,1995年5月に開催された「マルチメディアーレ4」(ZKM,カールスルーエ,ドイツ)には《重力と恩寵》と題された作品が出品された.作品の前に立つと,薄暗い鏡に映る自分の姿に,幽かな「精」がオーヴァーラップするように顕現する.阪神大震災の犠牲者に捧げられたこの作品のタイトルは,シモーヌ・ヴェイユの著作から取られている.ヴェイユによれば,たましいの自然な動きを支配するのは「物質における重力の法則と類似の法則」であり,唯一それから除外されるのが「恩寵」である.滅びやすい存在である人間の肉体と,精神を司る法則としての,ある超越的なものを感じさせる作品である.
これらは,タイトルにおける「引用」という手法によって導かれる思想性を背景としつつ,いずれも参加者の身体を介してはじめて成立する作品である.そこではとりわけ,ひとつのヴェクトルとして存在する「重力」というものが,さまざまなかたちで明らかにされるが,さらにその中で不意にたち現われてくる超自然的なもうひとつの力を予感させるものとなっている.それは,ヴェイユの言う「宇宙に君臨するふたつの力」を,まさしくふたつながらに体験させようとする試みなのである.